Entry1
鍋と蓋
千早丸
両親は喧嘩が絶えない。
原因は色々(共働きのすれ違い生活とか、ストレスとか疲労とか「ささやかな」八つ当たりとか)諸々あるだろうけど(「子供の養育に関して」が含まれないことだけは明記する)、ともかく夕食も入浴も終わった就寝直前「一日最後の幸福」と呼ぶ缶ビールが空になる頃、勃発する。
しかも規模が半端ない。口喧嘩で終われば僥倖で、手が出る、足が出る。「凶器を持つな」など甘さは通じず、花瓶、置時計、ハサミ、ペン、本、あらゆる物が飛び交い振るわれる。
片付けないしね。
皿が割れている程度は慣れたが、さすがに包丁が壁に突き刺さっていた時は怒鳴った。
「壁紙の在庫ないんだから、穴あけないでっ!」
弟に「論点が違う」指摘されたけど。
努力はしたのだ。姉弟で(ウソ)泣きながら「喧嘩しないで」縋ってみたり、祖父母や親戚へ根回ししたり、「近所迷惑だから」社会常識を説教したり、最終手段の警察を呼んだりもした。
しかし、両親は晴れやかに仰る。
「夫婦円満の秘訣」
頭痛がする。彼等は本気で「喧嘩」が「ラブの証(本人談)」と信じている。
確かに普段の夫婦仲は良好だ。正確には、良好すぎる。
休日は恥ずかしげもなくペアルックで、子供眼中なしの手を繋ぎ指を絡めたスッキプ歩行。出勤の朝も気力を奪われる濃厚さでキスをし、お互いにうっとりと見詰め合って弁当を交わす。
弁当を作っているのは弟だが。
家事に無到着な彼等では健康的生活は望めないので、食事は弟が、洗濯掃除(家の修繕も含む)は私の仕事だ。
弟が料理する理由は――ともかく、日々努力である。
以前に食卓を割られてから「地震対策に」偽って大型家具は固定したし、棚扉は繊細に引かなければ開けられない。小物も置物は固定したが、翌日、小物自体が壊されるか固定した棚が倒れ中身を散乱させて、やめることにした。
両親が疲れて帰宅する頃、湯気立つ手料理、清潔で片付けられた室内へ迎えられるのは子供二人の努力の賜物で、感謝してほしいが、夜な二人世界は撲滅されない。
努力が面倒で「どうして喧嘩するの?」聞いたコトもあるけど。
母は夢見るように「喧嘩のあと、パパってば燃えるの」素面で子供に語るには問題過多な戯言を謳い、父も「それが我家の伝統」威張って「受け継げ」家訓を強要した。
要は、似たもの夫婦、なのかも。
それはともかく。
最近、近隣へ温かな理解がこっそり広がっていて、怖い。