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1000字小説バトル

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1000字小説バトル【Rosso】stage2
第7回バトル 作品

参加作品一覧

(2008年 9月)
文字数
1
千早丸
1000
2
ごんぱち
1000
3
ヤマモト
1000
4
1000

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Entry1
鍋と蓋
千早丸

 両親は喧嘩が絶えない。
 原因は色々(共働きのすれ違い生活とか、ストレスとか疲労とか「ささやかな」八つ当たりとか)諸々あるだろうけど(「子供の養育に関して」が含まれないことだけは明記する)、ともかく夕食も入浴も終わった就寝直前「一日最後の幸福」と呼ぶ缶ビールが空になる頃、勃発する。
 しかも規模が半端ない。口喧嘩で終われば僥倖で、手が出る、足が出る。「凶器を持つな」など甘さは通じず、花瓶、置時計、ハサミ、ペン、本、あらゆる物が飛び交い振るわれる。
 片付けないしね。
 皿が割れている程度は慣れたが、さすがに包丁が壁に突き刺さっていた時は怒鳴った。
「壁紙の在庫ないんだから、穴あけないでっ!」
 弟に「論点が違う」指摘されたけど。

 努力はしたのだ。姉弟で(ウソ)泣きながら「喧嘩しないで」縋ってみたり、祖父母や親戚へ根回ししたり、「近所迷惑だから」社会常識を説教したり、最終手段の警察を呼んだりもした。
 しかし、両親は晴れやかに仰る。

「夫婦円満の秘訣」

 頭痛がする。彼等は本気で「喧嘩」が「ラブの証(本人談)」と信じている。
 確かに普段の夫婦仲は良好だ。正確には、良好すぎる。
 休日は恥ずかしげもなくペアルックで、子供眼中なしの手を繋ぎ指を絡めたスッキプ歩行。出勤の朝も気力を奪われる濃厚さでキスをし、お互いにうっとりと見詰め合って弁当を交わす。
 弁当を作っているのは弟だが。
 家事に無到着な彼等では健康的生活は望めないので、食事は弟が、洗濯掃除(家の修繕も含む)は私の仕事だ。
 弟が料理する理由は――ともかく、日々努力である。
 以前に食卓を割られてから「地震対策に」偽って大型家具は固定したし、棚扉は繊細に引かなければ開けられない。小物も置物は固定したが、翌日、小物自体が壊されるか固定した棚が倒れ中身を散乱させて、やめることにした。
 両親が疲れて帰宅する頃、湯気立つ手料理、清潔で片付けられた室内へ迎えられるのは子供二人の努力の賜物で、感謝してほしいが、夜な二人世界は撲滅されない。

 努力が面倒で「どうして喧嘩するの?」聞いたコトもあるけど。
 母は夢見るように「喧嘩のあと、パパってば燃えるの」素面で子供に語るには問題過多な戯言を謳い、父も「それが我家の伝統」威張って「受け継げ」家訓を強要した。
 要は、似たもの夫婦、なのかも。

 それはともかく。
 最近、近隣へ温かな理解がこっそり広がっていて、怖い。
鍋と蓋 千早丸

Entry2
モンペさん
ごんぱち

「ちょっと先生! うちの子のテストの点数が三点って何よ! どれだけ落ち込んでると思ってるのよ! 慰謝料払いなさいよ!」
「……あの、採点ミスでもありましたか?」
「そんな話をしてるんじゃないわよ、百点満点のテストで三点を付けるっていう事は、百点取った子の三分の一ぐらいしか価値がないって言ってるのと一緒でしょう? これが建太の心の傷になったらどうするの!」
「ですが、問題を間違えて、その結果として三点なのですが」
「ふざけんじゃないわよ、この問題なんか見てみなさいよ」
「はあ、9-3=5……答えは6ですから、間違いですよね」
「その四角四面の答えは何よ、そんな発想で子供を育てられると思ってるの? 5と6なんてたった1の違いじゃない、そんなものに拘って子供の心に傷を付けて良いとでも思ってんの!?」
「はあ、1ぐらいの違いはどうって事はない、と」
「当たり前でしょ、そんなのも分からないの?」
「確かお宅は子だくさんでしたね」
「五〇〇人いるけど何か?」
「偶然この職員室に全員来てる訳ですが」
「あら本当、気付かなかったわ」
「偶然持っていたコルト・パイソンのコブラカスタム、別名宇宙一強力な銃、その威力は小型ミサイルに匹敵するアレで一人、ちょっと撃ってみますね」
「あっ! 何するのよ! 木っ端微塵になっちゃったじゃない!」
「ははは、残り四九九人も子がいるのだから良いではないか」
「代わりになる訳ないでしょう! 返して、返して! 生き返らせて! 今すぐ返して!」
「お前は五〇〇人の子がありながら、たった一人にこれ程心を動かす、まして、6から5になったら如何ばかりかな?」
「は――あなたは、お釈迦様!?」
「数字の違いは1でも非常に大きい事が分かったろう。はっきりした答えのない現実の中にあってはむしろ、はっきりした答えが出る方が貴重なのだ。子供の柔らかな心にとって、その小さな成功体験、小さな達成感の積み重ねは世界への興味と己への自信を育てる、それが学校における教育、勉学の道しるべなのだ」
「……わ、私が、間違っておりました」
「うむ、この教え、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
「はい……」

「……あの、お釈迦様」
「なんだ?」
「殺した子供のフォローは?」
「ああ、大丈夫。きちんと転生させて次の子の魂と差し替えておいた」
「あの子、七歳だったんですけど、養育費は……」
「あれ、こんなところにM61、製品名バルカンが」
「……何でもないです」
モンペさん ごんぱち

Entry3
愛し太郎
ヤマモト

 私のおでこには傷がある。小さい頃太郎に石で殴られた傷だ。
 私は人生初の大きなケガとその理不尽な暴力に魅せられて太郎を好きになってしまった。
 しかしその暴力は私だけのものでは無かった。両親友達先生、老若男女問わずその力は使われた。
 私はいつも太郎について回り、一番近くでその暴れっぷりを見てきた。
 太郎の暴力は嵐の様に猛々しく、咲き誇る花の様に美しかった。


 高校に入って太郎に恋人ができた。私は辛かったが、太郎がその恋人をどんなやり方で傷付けるかを想像してやり過ごした。

 しかし傷付けられたのは太郎の方だった。
 付き合って一ヵ月で、その恋人は浮気した。美しい彼女はその美貌と若さで男をたぶらかし、喜ぶ類いの女だった。
 太郎の制裁が見物だと期待したが、太郎は只黙っていた。

 つまらん。私は思った。目茶苦茶にしてやればいいのに。さんざ痛め付けて打ち捨てればいい! 直訴しようかと思ったが、沈黙太郎に何を言っても無駄そうだったので止めた。

 代わりに私が暴力を使った。暗がりで彼女を待ち伏せし、後ろからレンガで殴り付けた。それは太郎の様には美しくなく、見苦しいものだった。

 だから私は罰を受けた。
 太郎は私を家の納屋に閉じ込めボコボコにした。殴り蹴り、髪をライターで焼いた。私は恍惚としていた。

 一通り痛め付けると太郎は納屋を出ていった。
 私は痛みに悶絶して転げ回り、色んな物にぶつかった。何か大きな物が倒れた。
 それは太郎のギターケースだった。数回弾いてる所を見たが全然上手くならず、すぐ飽きていた。
 ズルズル這って近付き、ケースを開ける。
 中にはギターと、ノートが入っていた。
 ノートを開く。そこには太郎の汚い字で詩が書いてあった。こんな。

「君は〇〇」

君はまるでカレーライス
皆が大好きなんだ
優しくて白くて茶色くて
ピリッと辛い時もある

君はまるでオムライス
僕は夢中なんだ
温かくて黄色くて優しくて
ケチャップのハートが可愛いよ

好きさ
好きだ
好きなんだよお

僕ときめくさ
ドキドキ
ズキズキ
バクバクだよお

気付いておくれよアイウォンチュー
君がこの世でモストビューティフル
僕だけが知ってるさ
イエス

僕だけが知ってるぜ
イエイ



 ………言いたい事は沢山あったけど、ただ単に面白いのと、なんだか太郎が愛しくて、私は堪え切れず爆笑した。

 ビキビキと傷が痛んだけれど、太郎がやってきて「うるせぇんじゃお前」って私を蹴るまで、私は笑い続けた。
愛し太郎 ヤマモト

Entry4
ミサか

 誰か、行方不明になっていればいいのに。殺人事件に巻き込まれたりして。
 二学期が始まったばかりで、登校してきた同級生たちはうるさかった。僕はお気に入りの空想を続ける。
 いつの間にかホームルームが終わりかけ、一時間目の数学まであと五分と迫ったときに気づいた。初芝ミサの席が空いていた。不謹慎と思いながらも好奇心が抑えきれない。彼女については、小学生のころからよくない噂がいくつもあった。三千円でキスできる、だとか、一万円払えば最後までやらせてくれる、だとか。他にも学校を休む日は昼間の公園でおっさんを相手に売春しているということまで影で囁かれていた。ウソだと言い切れない自分が情けなかった。幼稚園児だった自分にトラウマとして残った場面が甦る。
 近所で天狗の家と呼ばれていた平屋。変色しへこんだ畳、剥がれかけた壁紙からシンナーの匂いがする瓦礫のような家の中で、小さな彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「おい、初芝が自殺だってよ」
 昼休みに後ろから飛んできた言葉が焼きついた。
 まさか。
 やきそばパンがいつの間にか無くなった。くだらないと思いつつ、人気者グループの戯言に耳を傾ける。売春疑惑の公園の池で入水自殺とはまた古風な。
 次の日も、彼女は来なかった。
 僕は花束を抱えて、公園に行った。小高い山を利用した公園で大森林公園と地元で呼ばれているこの公園には、結構大きな貯水池があった。今日は風が強く、空は暗く感じるほどの群青色をしていた。まだ気温は三十度を超えているのに、汗はかかなかった。
 深緑色した池に浮いている人間の背中が見える。
 まさか。
 ミサか?
 柵を乗り越えて草がぼうぼうに生えた斜面を駆け下り、池に転がり落ちた。花束が途中で消えた。ともかく泳いで、溺死体の元へたどり着く。僕が手を触れると、その体が跳ね上がってヤリを構えた。シュノーケルを被った女、死体じゃない。急に動けなくなる。服が重く、体が沈んでいく。
 気がつくと、土手にずぶ濡れのまま倒れていた。日が暮れかけている。耳元でパチパチと聞き慣れない音がした。体を起こすと、下着姿のミサがたき火で魚を焼いていた。何も言えないでいる僕に、彼女が魚のささった木の枝を無言で差し出した。子供のころと変わらない笑顔で。
 口をついて出たのは彼女への告白だった。ミサは顔色を変えて、再び貯水池に飛び込んだ。
 ふられたのか?
 向こう岸で彼女が手を振っていた。