Entry1
タナトスはヒュプノスを殺せるか?
萩鵜あき
私は知識もないのに、この仄暗い世界に対し諦観を決めていた。何もせず、何も望まず、今ある全てで満足し上も下もなく、それが偽りの世界だったとしても、何が変るでもない明日を、何故だろう…心待ちにしていた。
そんな感情は、下に在るはずの水が、いつの間にか気化するように、見えないまま消えてしまっていた。
いつまた自分に曇天からの雨の如く、乾いた肉体を焦がす日が来るのだろうか?
風前に消ゆるロウソクの火よりかは、私は強くなったのだろう。
私は、目覚めたのだから。
…
お祖母さんが号泣した時は、一体何が起こったのかと思った。
お祖母さんは、生きてきた中で泣いたのは生まれてきた時だと言って、豪快に笑う様な、まさに豪傑という言葉が似合う人だからだ。
お祖母さんは一体、どうしたのだろう?
その原因たるパーツを持ち合わせているけれど、私は今、その組み立て方を知らない。
どうなってしまったのか? 良かったのか、悪かったのか。
何も解らないまま、救い出された。
…
世界の仄暗い一部の裂傷に、気づいた誰かがこじ開けた。それで、簡単に全てが終わった。
私の黒い赤はもう見えない。
舞台に幕が下りたのだから。
私の認識愛の衝動は、簡単に止まる。
あんなにも弾が転送され続けていたのに。
私のタナトス殺されはしなかった。
私は、眠らなかったのだから。
…
ヒュプノスとタナトスは兄弟ではなく、二重人格だったのだろうか?
偶然発生のノイズが中で騒めく。現実逃避をしても異物により喪失感が体を虚脱させ、何度も疑似欠損を味わう。
実際には何も無くならない。…無くなるのは私の心だから。
赤が青に変る事が当然だとするならば、黒のソレが赤へと変化するだろう。
赤がまた青へと戻る事無く、黒は赤で青黒く。何度も舞台を再演させられ、私は神経をズルリと体から引きはがす。
イヤダ
イヤダ
脳内での回路接続が失敗し、言葉の崩壊を起す。
ヒュプノスにはタナトスの人格を宿してはいないだろう。
きっと眠りに支配されたのは、タナトスが彼を殺したからだ。
事の時以外は、私は眠り続ける。いや、眠りしか私に与えられた娯楽はない。
シニ…タイ…
脳を流れる記憶の断片に偶然誤差。私のタナトスは膨張する。
ネムリタイ…
体が瓦解する。解体する。
コワレル
コワレル
揺れる景色。軋む舞台。
熱く痛く欠損した。
ナニカが体を押し上げる。
いつまでも燃えさかる舞台の上で父は、荒馬の如く私を犯し続けた。