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1000字小説バトル

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1000字小説バトル【Rosso】stage2
第10回バトル 作品

参加作品一覧

(2008年 12月)
文字数
1
SuzzannaOwlamp
998
2
秋尾 十一
999
3
ヤマモト
1000
4
ごんぱち
1000
5
植木
1000

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Entry1
薔薇の葬列
SuzzannaOwlamp

 少年時代、机の棚から卑猥な本を手にとって読んだ記憶がある。そこには私の幼少時代のアルバムが並んでいる。おかっぱ頭の私は机の引き出しにそれを隠し、居間を襖から覗く。親はテレビを見ながら、焼酎を飲んでいる。テレビの画面に、綺麗な女優が映し出されたかと思うと、豚鼻のお釜が歌を歌っている。場所はゲイバーらしい。そこで来客たちがホステスと話し込んでいる。
「最近じゃお釜商売が人気で、自らお釜を名乗るやつも出てきているらしい」
「あら、失礼ね。私は正真正銘の本物よ」
親がテレビのチャンネルを回す。そこには薬物中毒者のインタビューが映し出されている。日本語とも英語ともつかないろれつの回らない声でインタビューに答える薬物中毒者。
「アイムクスラを飲むとフワーッと高揚感が……」
無精髭を生やし、残薔薇髪の薬物中毒者の画面に嫌気が差し、親はまたチャンネルを回す。七人のゲイたちがテーブルの前に座っている。何かのきっかけに七人は踊り出す。ディスコで上半身裸になり、踊る七人は馬鍬いながらもその肌を露呈する。重なり合ったゲイ達が、モノクロの画面に映し出されている。その時、親がくるりと振り返り、私は、ぴしゃりと襖を閉める。私は、その場から逃げ出したい衝動を抑え、もう一度、襖を開く。テレビの画面にはお笑い芸人が馬鹿騒ぎしている。安心して、居間の敷居を跨ぐ。親は、何も考えずにテレビを見る私に薄ら笑いを浮かべる。テレビの笑い声は声量を増し私もそれに攣られて笑う。親は、真剣な表情で、それを見ていれば、良いというような感覚で、私を諭す。テレビ番組は、フィナーレを迎え、尻に薔薇の花を挟んだ映像が映し出される。私は、そこから身動きが取れない。豚鼻のお釜と鼻筋の通った俳優が裸で抱き合っている。肉付いた脚の隙間から、俳優の顔が覗く。路上で赤裸になった男の背中が見える。向こう側からは帽子を被ったお釜。私は、そこから抜け出し、二階から一階に降りる。床屋になっている一階では男が男の髪を切っている。私はある種の清涼感を覚え、三階の自分の部屋までとんとんとんと駆け上がる。部屋に帰り、ベッドに横たわり、今日見た映像を反芻する。もうすでに卑猥な本を読もうとは思わなくなってきた。私は、おかっぱ頭を掻き上げ、ベッドに横になった。ドアをノックする音がする。親は私の卑猥な本を見て、苦笑いする。
「お前もそういう歳になったか。まあいいだろう」
薔薇の葬列 SuzzannaOwlamp

Entry2
カスタマーセンター
秋尾 十一

 「世界中のあらゆる紛争は、ロックフェラー家とロスチャイルド家の対立に還元される。知らないだろ?」と陰謀論好きな元上司は言っていた。

 そうかなあと思う。

 世界は、陰謀や二項対立によって、成り立っているのかなあ。根本原理は、もっとシンプルなんじゃないかな。
 例えば、今回の金融危機が示したのは、ゲームプレイヤー各々の意図(陰謀)を越えて、「勝者は誰もいない」ということ(二項対立によって、一方が勝者になることはないということ)だよね?
 例えば、僕が出社拒否に陥ったのは、あなたがみんなの前でネチネチと質問責めするのを楽しんでいたからだよね?

 ほらっ、世界は単純で分かりやすい。

 どうして自分だけがこんな目に遭うんだと運命を恨んだ。
 出社拒否(拒否と言っても、こちら側に明確な意思があるわけじゃないけどね。そういう主体性が保てないところまで追い詰められているから病気なわけだし)の当時、絶望的な気持ちで、辞表を提出しようとした。しかし、会社とて、「人間関係で嫌になったので辞めました」と周囲にあからさまに知られている状況で辞められたのでは、体面にかかわるのだろう。長期療養休暇が認められた。
 そこで勇気を出して医者に行ったわけだが、診察は2週間に一度、5分程度だ。しかも、質問はいつも同じで二つだけ。

 「薬はちゃんと飲んでいますか」
 「変わりありませんか」

 以上(それこそ、「あなたの質問、変わりありません」だ)。
 それでも、服薬を続けているせいか、少しずつ外には出られるようになった。土日は家族連れでにぎわう近所の公園も、平日の昼間はガラガラだ。まるで違った場所のように見える。自分が、誰もいない王国の王様であるような気になる。悪い気分じゃない。
 今は、段階出社が認められ、一日二時間、在庫管理の仕事をしている(金融危機で僕みたいのを雇う余力がなくなるのを心底、怖れる)。
 世界の単純さにふさわしいような、単純な作業だ。悪い仕事じゃない。何より、マイペースでできるのがいい。まあ、戦力としては、カウントされていないんだろうとけど。
 在庫を数えるように、ふと、残りの人生を数える時、思わずにはいられない。

 これをいつまで続ければ、いいんだろう。

 きっと、死ぬまで?
 死ぬまで、to be continued。
 いいや。
 死んでも、to be continued。
 どこまでもつながっている。

 つながらないのは、カスタマーセンター。
カスタマーセンター 秋尾 十一

Entry3
優しい惑星の優しい記憶
ヤマモト

 ある惑星のある夕暮れ。

 黄昏色に染まる空は他のどの星のそれより美しく、死ぬ程透明な風に満たされた言わばひとつの芸術品です。途方もない宇宙へ続く、液体に似た空気の海です。
 その中を泳ぐように、一人の少年が歩いていました。まだ細い足で虹色の石畳を踏み締め、グングンと坂道を登って行きます。少年の瞳は全てを吸い込んでしまいそうな闇色で、それでいて空や雲の色を映し、時折オーロラのような光をたたえるのでした。
 少年が坂を登るのと逆にゆっくりと太陽は沈み、薄いカーテンを幾重も引いて行く様に、段々と世界が明度を落として行きます。少年の短い髪を梳く様に、優しい風が吹きました。まるで地平線に消えていく太陽が、別れの挨拶をしたみたいでした。
 少年は足を止めて振り返ります。眼下にはレンガの街並が広がっています。そこにはまだ太陽の光の粒子が残っていて、明るい昼間の余韻がたゆたっています。オレンジ色の、甘酸っぱい匂いを少年は感じます。
 目を閉じて耳を澄ませると、教会の鐘の音や家へ帰る子供達の笑い声、露天商が店仕舞いをする音などが聞こえてきます。賑やかで、楽しい音楽です。少年はその音楽に小さな笑みを返しました。薔薇色の頬を風がまた軽やかに撫でます。

 大きなひとかたまりの雲が、他の小さな雲達とくっつきながら西へ流れて行きます。見送っているうちに空はぐんぐん暗くなり、やがて夜がやってきました。
 少年は街から離れた草原にやって来て、そこに生えた大きな木にするすると登りました。そしてもう暗くなった空を見ます。黒いのに透明で、そこにある筈なのにけして触れる事のできない空は、この惑星とはまた別の、冷たい惑星や星座達の浮かぶ宇宙へと繋がっています。息を大きく吸い込むと、まるで宇宙の、神秘のかけらを体に取り込んだ気がして、少年は嬉しくなりました。漆黒の宝石を思わせる二つの瞳が、一層深く輝きます。
 その時ゴウと風が吹き、木の葉がせわしくひるがえりました。けれども少年の体は沢山の枝や葉っぱに守られて、びくともしません。少年の周りでザワザワと濃い緑の葉が鳴ります。大丈夫だよ、と囁く様に。それに混じって街の酒場の楽しげな音楽が聞こえてきました。強い風が運んできたのでしょう。
 少年はゆっくりと目を閉じました。ほう、とため息をつきます。風や、緑や、月や星の明りはそっと少年を包んでいます。

 ――優しい惑星の、優しい夜です。
優しい惑星の優しい記憶 ヤマモト

Entry4
ごんぱち

 女は機織りを続けています。
 男はその音を聞きながら、藁を編みます。
 静かな夜、機織りの音が乱れる事もなく響き続けます。
 いつしか、男は手を休め、隣の部屋を見つめていました。
「……死んだ嫁御が生きていた時も、こんな風、だったな」
 男は呟き、また仕事に戻りました。
 夜もすっかり更け、草鞋がもう一つ編み上がった頃、機織りの音も止まり障子が開きました。
 女の手には、美しい反物がありました。
「おお、疲れたろう」
 男は女に笑いかけます。
「い……いえ」

「今日も機を織りますが、覗かないで下さい」
 女は障子を閉め、機織り機の前に座ります。
 すると、女はいつの間にか一羽の鶴の姿になっていました。
 機織り機を動かし、時折、自分の羽を布に織り込んで柄にしていきます。
 そしてすっかり夜が更けた頃、反物は織り上がりました。

 次の日、機織りをしようとする女を、男は呼び止めます。
「顔色が悪いようだな、今日は休め」
「いいえ、大丈夫です」
 女は笑いますが、やつれは隠しきれません。昨日も一昨日も夜なべをしてほとんど眠っていませんし、人に化けている間は見えませんが、抜けた羽根の痕は腫れ上がりヒリヒリ、ズキズキと痛み続けているのです。
「死んだ嫁御も働き者だったが、お前はその何倍も働いてくれている。もう少し休んで良い」
「……亡くなった嫁御より、働いておりますか」
 女は心から嬉しげに笑いました。

 女はその次の日もまた、鶴に戻って、機を織ります。
 心地よい音を立てながら機織り機は動き、反物が織り上がっていきます。
(あの人なら……本当の事を言っても)
 そうして、いつもよりもほんの少し早く、そしてずっと美しく反物は織り上がりました。
「ふぅ……」
 鶴が息をついた時。
 後ろで物音がしました。
 鶴が振り向くとそこには、障子がほんの少し開き、その隙間から尻餅をついている男の姿が見えました。男の顔は、驚きと、そして、僅かな恐怖がありました。
「お、お前は」
「……私は、お前様に助けられた鶴。恩返しにと参りましたが、正体を知られてしまったからにはお暇せねばなりません」
「待て、済まなかった、思い直してくれ!」
(妖の類だとして……死んだ嫁御の幽霊だったら、お前様は、怖れるよりも前に笑いかけたのではないですか)
 鶴は反物を男に手渡すと、家から出て、羽根の抜けかけた翼で、よろよろと山へと飛び去って行きました。
 むかし、むかしのお話しです。
鶴 ごんぱち

Entry5
色の無い風
植木

 レストランは手入れの行き届いた庭園に面していた。視界が開けた庭園の一面に敷き詰められた芝生は、まだ鮮やかな色を保っている。国道を一本挟んだ先に晩秋の海があった。雲は風に抗うこと無く、真昼時の陽光は海面を乱反射しながら船も人影も無い海原を遠く水平線まで輝かせていた。
 男は、その眩しさに目を細めた。
 眼前に広がる白い光の煌きは、雪国育ちの男に晴天の雪原を想い出させた。

「それにしても……」と手洗いから戻ってきた背の高い男は席につき、細長い指に挟んだ煙草に火を点け、瑪瑙のカフスに目をやりながら呟いた。
「一緒でよかったのかな、変な言い方だけど、お前、最後の食事だろう、言わば家族としちゃ」
 そう言われた男は向き直ると、むしろその方が助かるさ、と言葉を返した。まだ日焼けの褪せていない肌にネイビーブルーのシャツが似合っている。コーヒーを一口啜ると視線を海に戻したが、もう雪原は跡形も無く消えてしまっていた。
 妻は食事を終えた息子にせがまれ、一緒に庭園へと降りていた。男はぼんやりと二人を目で追いながら、出会いからの日々を思い出そうと努めたが、頭に浮かぶのは最近の嫌な出来事ばかりだった。

「片方だけ悪く言う訳にもいかないが、お前は昔から無口だからな、もっとも僕の時なんかは、このお喋りが原因だったけど、ま、今になってみると、一人になるのも案外悪くないさ。や、この場で言うことじゃないか、それにしても、さびしくなるな、まったく」
 黙って頷く相手を前に男は、しゃべりすぎた照れを隠す様に二本目の煙草に火を点け、口元をすぼめながら器用に煙を輪にして吐き出した。沈黙した二人の間を輪がゆっくりと白い天井に向かって上って行き、形を歪ませながら次第に散っていった。
 男は考えることを諦め、喉を潤すためコーヒーに手を伸ばしたが、すでに冷めてしまった液体はその苦さだけを舌に残した。

 男達は再び窓の外に視線を戻した。
 いつの間にか、水平線の近くに一隻の船が浮かんでいた。妻と息子も背を向けたまま、静かに消えて行く船を見つめている。少し強い風が出てきたらしく彼女の肩まである髪を乱したが、同時に美しい腿の線をスカート越しに浮び上がらせていた。
 男はその姿にしばし見とれた。と、不意に彼女が振り返り男に向かいアカンベーをしてみせた。涙を拭う仕草をした後、男に何かを叫んだが、その声はテラスのガラスに阻まれ男に届く事は無かった。