Entry1
美人局
SuzzannaOwlamp
えー。夢と申しますのは、現在を遡る作業だとされております。つまり夢は今日一日を映し出す鏡なのでございます。余談はさておき『夢のからくり』というお噺。もしかすると聞いたことがあるとおっしゃる方がおられましょうが、それも夢の噺なのでございます。
「ご隠居、今日の瓦版見たかい? すごい噺が載ってたよ」
「見たともさ。なんだって将軍様がお亡くなりになったっテェ噺じゃねえか」
「それだけじゃねえや。奥方さまが急遽、跡を継ぐっテェんだから大した噺さ」
「まぁいや。今日は弔い酒だ。鶴と龍の紋の入った徳利用意して、泣き明かそうじゃねえか」
「それじゃあ祝い酒じゃねえか。馬鹿だねオマイさんは。こういうときは白の羽織着て黒の袴を着るんだよ」
「ナアンだ知ってるんじゃねえか。これから町人連中集めて盛大にやるからよぉ~く覚えとくんだよ」
「何言ってやがんだい、馬鹿だねえオマイさん。今夜の夢は燗徳利にでもシマイこんぢまいなよ。いいかい、オマイさん、このこと誰にもバラシちゃいけねえよ」
「分かったよ、ご隠居。これでも口はカテエ方なんだ」
「分かったらさっさと酒を用意すんだよ。将軍様がネムッチマワねえうちにな」
という訳でございまして、この二人酒を呑んだか呑まねえうちに眠っちまいます。
「殿様! 大変でございます。この度参りました祝言の件、お流れになってしまう可能性が出て参りました」
「ホウ何ゆえぞ。お主、ワシをからかっておるな」
「それは申しあぐねます」
「遺書にも認めておいたワシの一件。詰まりはお主にも読ませて遣わしたな」
「はい、私メの申す限りでは、あの一件が元で殿がお亡くなりになったと遣いを出してさふらえば、わが殿には一層の午を走らせ賜いたく存じ上げます」
「相想異ない。言うなればワシの妻になる嫁はどのような面をしておるのじゃ」
「私の口からはなにぶん申し上げかねます」
「まさか美人局ではあるまいな」
「いえ、そのようなことは私メの口からは……」
「承知の上じゃ。午を牽け! すぐに出立の準備じゃ!」
「まあ待ちなされな。我が妻を美人局にする気ではございませんでしょうな」
「お主、何奴じゃ!」
「まさしく美人局。邪魔をすると承知しませんぞ。我が妻に何を遣わそうと申すのじゃ」
「ゆうてもええかの」
「さっさと夢から覚めて必死で働くって噺じゃねえか分かったらさっさと夢から覚めてそなたの夢が見てみたい」
お馴染み『夢のからくり』の枕でございます。