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1000字小説バトル

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1000字小説バトル【Rosso】stage2
第11回バトル 作品

参加作品一覧

(2009年 1月)
文字数
1
SuzzannaOwlamp
1000
2
秋尾 十一
820
3
1000
4
トノモトショウ
1000
5
ごんぱち
1000

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Entry1
美人局
SuzzannaOwlamp

えー。夢と申しますのは、現在を遡る作業だとされております。つまり夢は今日一日を映し出す鏡なのでございます。余談はさておき『夢のからくり』というお噺。もしかすると聞いたことがあるとおっしゃる方がおられましょうが、それも夢の噺なのでございます。

「ご隠居、今日の瓦版見たかい? すごい噺が載ってたよ」

「見たともさ。なんだって将軍様がお亡くなりになったっテェ噺じゃねえか」

「それだけじゃねえや。奥方さまが急遽、跡を継ぐっテェんだから大した噺さ」

「まぁいや。今日は弔い酒だ。鶴と龍の紋の入った徳利用意して、泣き明かそうじゃねえか」

「それじゃあ祝い酒じゃねえか。馬鹿だねオマイさんは。こういうときは白の羽織着て黒の袴を着るんだよ」

「ナアンだ知ってるんじゃねえか。これから町人連中集めて盛大にやるからよぉ~く覚えとくんだよ」

「何言ってやがんだい、馬鹿だねえオマイさん。今夜の夢は燗徳利にでもシマイこんぢまいなよ。いいかい、オマイさん、このこと誰にもバラシちゃいけねえよ」

「分かったよ、ご隠居。これでも口はカテエ方なんだ」

「分かったらさっさと酒を用意すんだよ。将軍様がネムッチマワねえうちにな」

という訳でございまして、この二人酒を呑んだか呑まねえうちに眠っちまいます。

「殿様! 大変でございます。この度参りました祝言の件、お流れになってしまう可能性が出て参りました」

「ホウ何ゆえぞ。お主、ワシをからかっておるな」

「それは申しあぐねます」

「遺書にも認めておいたワシの一件。詰まりはお主にも読ませて遣わしたな」

「はい、私メの申す限りでは、あの一件が元で殿がお亡くなりになったと遣いを出してさふらえば、わが殿には一層の午を走らせ賜いたく存じ上げます」

「相想異ない。言うなればワシの妻になる嫁はどのような面をしておるのじゃ」

「私の口からはなにぶん申し上げかねます」

「まさか美人局ではあるまいな」

「いえ、そのようなことは私メの口からは……」

「承知の上じゃ。午を牽け! すぐに出立の準備じゃ!」

「まあ待ちなされな。我が妻を美人局にする気ではございませんでしょうな」

「お主、何奴じゃ!」

「まさしく美人局。邪魔をすると承知しませんぞ。我が妻に何を遣わそうと申すのじゃ」

「ゆうてもええかの」

「さっさと夢から覚めて必死で働くって噺じゃねえか分かったらさっさと夢から覚めてそなたの夢が見てみたい」

お馴染み『夢のからくり』の枕でございます。
美人局 SuzzannaOwlamp

Entry2
サプリメント、適正
秋尾 十一

 この世界には様々なサプリメントがある。それこそ、歯周病から心の病まで対応している。しかし、その全てを服用することはできない。だから、大切なのは、自分を知ることだ。今の自分に何が必要か。
  晴れの日の自分に何が必要か。日傘を探すように、探さなければならない。
  雨の日の自分に何が必要か。雨傘を探すように、探さなければならない。
  私達は、気象予報士の如き緻密さを携えながら、慎重に注意深く生きねばならない。私達は、男も女も、潜在的にお天気キャスターだ。

  いや、天気どころの話ではない。
 
  地球は自転し、公転している。いつもどこかで、石油は汲み上げられ、森林は伐採されている。世界は刻々と変化しているのだ。私達もまた、刻々と変化する世界のなかで、刻々と変化している。自分自身を捉えるのは、困難だ。
  それでも私達は、伊能忠敬が日本地図を描いたような緻密さを目指し、自分自身の把握に努めなければならない。

  自分自身のために。

 「自分自身のために?」と君は聞き返す。「うそつけよ」
 可哀そうな君はあまりにも疲れ過ぎて、事の道理が見えなくなってしまっている。
 私達は常に走り続けなければならないわけではない。疲れたら、宿泊所で休むのもいい。できるだけ、リーズナブルで高品質な宿を探して、疲れを癒すのがいい。
  「そして、あなたは下着を脱ぐんでしょ?」と君は笑って言う。
  君は完全に見誤っている。事の本質は、そんなところにはない。そんなところには。
  「興奮するサプリ、用意してよ」
  君は何も知らない。何も分かっていない。世界も私達も刻々と変化しているのだ。常に効く興奮剤なんかあるわけがない。
  「『あるわけがない』を百万回繰り返し言って、また、暗い巣穴に戻るつもり?」
  私は下着なんか脱がないと思う。そんなことのために生きてきたんじゃない。私は、君を含めた私達の幸せを願うためにここにいる。どれだけ誤解されようと、それだけは譲れない。
サプリメント、適正 秋尾 十一

Entry3
アイシーユー

 どろんと液状化した空気を漂っている気分。こんな気分を盛り上げるのは、ヘッドホンから響いてくる四つ打ちのリズム。テクノとかハウスとかエレクトロとかレゲエとか良く違いが分からないけど、そういうの。出来ればノンストップのやつがいい。部屋の中央に私は浮いていて、コポポッと軽い泡を吐く。よくSFアニメなんかに出てくる酸素を取り込んだ液体に満たされているイメージ。
 一週間に一度はこんな時間がないと身が持たない。全て忘れてリラックスできる時、場所。摩耗した神経を癒す一人きりの時間、自分だけのテリトリー。例えるならここは私の集中治療室。同棲なんて考えられない、まして結婚とは何事か。私はロンリーウルフウーマン、罠を仕掛ける女なのだから。
 昔から人をからかうのが好きだった。私の嘘にだまされてオロオロしている人を見ると可愛くて仕方がなかった。実際ほおずりをしたくなることもしばしば。次に私は素知らぬ顔をしてターゲットに助け船を出す。そいつの目にはもう私しか映らない。ここに生じるヒリヒリするような罪悪感がいい。たまらない。嘘をつけばつくほど無垢な信頼感を得て、裏切り、また私の心は切り刻まれる。
 目下のターゲットは職場の新人さんだ。今のデザインという仕事は、割と個人裁量に任せられる部分が多い。まあクライアントの要望には忠実にしなければならないのは当然だが。私は一応プロジェクトのチーフなので、ある程度の自由がきく。私の案が通らなければ、没になるまでだ。仕事は作ればいくらでもある。このプロジェクトは新人さん、森田君に捧げると決めた。
 まずはベタに画鋲で様子を見る。キーボードのDと1にセロテープで。カナ文字入力すると「しぬ」となる。死ね、じゃないところがミソだ。まだとっかかりを得るだけでいい。そして私はこう言うのだ。
「デザイン業界はイヤらしい世界だからね」
 ふふ、今夜の酒の味が1ランク落ちるだろう。
 次に森田君にだけ、クライアントの案件をわざと間違えて伝える。まだ新人さんだからこの程度のミスは許されるだろう。私は抜け目なくこういうのだ。「やる気がないのなら辞めなさい」
 そしていきなり森田君をプロジェクトの中心メンバーに大抜擢する。ここぞとばかりに賛辞をつけて、社内の嫉妬を煽る。とどめは「森田君の才能に期待してるわ。責任は私が取る」
 どんな失敗してくれるのだろう。胸が痛い。きっと助けてあげるからね。
アイシーユー 葱

Entry4
夜蝶失踪事件
トノモトショウ

 この話は、私(トノモトショウ)が二十一歳の頃、つまり今から六年ほど前のことだが、実際にあった奇妙な事件に纏わる出来事について語るものである。

 パピヨン、というのがその女の名前だった。女は当時63歳で、現役のストリッパーだった。胸と腹は歳相応に垂れ下がり、白い陰毛に覆われたヴァギナはその機能を失って、ただの空洞でしかなかった。しかし、何故か女性特有のエロチシズムだけは健在で、充分ショウを成立させることが出来た、というから不思議な話である。

 私は高校時代の友人Sに会うために、新宿まで来ていた。Sは弁護士を目指して東京の大学に入ったが、一年もしないうちに挫折した。Sは私の顔を見るなり「良い所に連れてってやる」と不敵な笑みを浮かべ、歌舞伎町の路地を進んでいった。
 ゴールデンホールという品性のかけらもない名前のストリップ劇場。そこで私達はパピヨンという名の女に出会ったわけだ。私は内心悪態をついていたが、Sはやけに熱心に萎んだ乳首を眺めていた。

「愛してるんだ」
 Sの告白は衝撃的だったが、同時に悲しい予感を孕んでいた。パピヨンという名の女が帰るところを捕まえて、愛の言葉の詰まった手紙を渡すことになり、私は憮然としながらも付き合うことにした。
 結果的にSの目論みは成功した。パピヨンという名の女は、皺くちゃの顔をさらに皺くちゃにして手紙を受け取ったのだ。子供のように喜ぶSの横顔を見ていると、野暮な言葉は飲み込まざるを得なかった。

 それから一ヶ月が過ぎた頃、Sから電話があった。「返事が帰ってこない。催促に行くから一緒に来てくれないか」
 報われるはずもない他人の恋のために、大阪―東京を往復する羽目になるとは思わなかったが、多少の好奇心に突き動かされ、再びゴールデンホールまで来ていた。
 Sは近くの髭面のボーイを呼び止め「今日のパピヨンさんの出番は何時ですか?」と聞いた。ボーイは怒ったような、困ったような表情を浮かべて「消えたよ、あの人は」と言い放った。

 ボーイの話によると、二週間ほど前に何の前触れもなく、彼女の行方が知れなくなった。支配人は慌ててアパートまで駆け付けたが、机の上に手紙が一通あるだけで、彼女の姿はなかった。
 その手紙に何が書かれていたのか、私達には教えてもらえなかったが(ボーイも内容までは知らなかった)、Sへの返事だったのではないだろうか。根拠はないが、私はそう思っている。
夜蝶失踪事件 トノモトショウ

Entry5
子供に罪はない
ごんぱち

 日曜日、図書館に四谷京作はやって来た。
 借りた本を返した後、窓の近くの雑誌の置かれたコーナーに向かう。
「ええと確か……ああ、あった」
 鉄道雑誌を一冊取り、椅子に腰掛ける。
 四谷がページをめくっていると。
 六歳ぐらいの子供が叫びながら走り回り始めた。
「……まあ、子供は泣くもの、騒ぐもの。親に任せるのが筋だな」
 だが親が現れる気配はなく、子供は走り回り続け、より大声で叫び始める。ついには、手近な本を引き抜いては床に投げ始めた。
 四谷は雑誌から顔を上げる。ふと見ると、読書用机に腰掛けた女が、咥え煙草で他の女と喋っている。騒いでいる子供と同じ絵柄のプリントされたTシャツを着ており、母親である事は間違いなさそうだった。
「……っ、仕方ないな」
 注意しようと立ち上がりかけた時。
「あいや待たれい! そこの方!」
 大声で呼び止められる。
「な、なんだ?」
 髪がぼさぼさで、枯れ枝のような手足をした老人が顔をぐいと近づけて来る。
「子供には罪はない、子供を叱ってはいかん」
「悪い事をしたら、叱らなきゃ駄目だろうが」
「いやいや、そうではない、あの子供は可哀想な子なのじゃ」
 老人は涙ぐむ。
「どんなになだめようがすかそうが、決して学習はせん。叫ばずにはいられんし、暴れずにはいられんのだ。叱ろうものなら、もっと暴れ回る。母親もすっかり諦めておる」
「そ、そうだったのか」
 話を何となく聞いていた他の者も、納得した風に子供を見つめる。
「立派に……育ってくれると良いな」
「いや……無事に育ってくれさえすれば、もう充分じゃ」
「そうだな、ああそうだとも」
「負けるなよ!」
「そうね、頑張らなくても良いわ、生きなさい」
「応援してるぜ!」
 皆の温かい気持ちに、図書館は満たされた。
「っと待てええい! あたしの子は普通よ! 何の異常もないわ!」
 猛然と突進して来た母親が怒鳴る。
「いやいや、皆まで仰らずとも良い」
 老人は慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「真に辛いのは、親であるあなた。可哀想に、けれど神様はきっと埋め合わせをして下さる。負けてはいけませんぞ」
「そうだな、希望を捨てるなよ!」
「頑張ってる、お母さん、あなた、人の百倍頑張ってるわ!」
「人生雨の日ばかりじゃないぜ! きっと次の子は大丈夫だよ!」
「違うって! そんな目で見るな! うちの子をそんな目で見るんじゃねえ!」
 母親の怒鳴り声も、温かな空気の中にゆっくりと融けていった。