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1000字小説バトル

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1000字小説バトル【Rosso】stage2
第12回バトル 作品

参加作品一覧

(2009年 2月)
文字数
1
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
2
1000
3
ヤマモト
1000
4
ごんぱち
1000

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Entry1

(本作品は掲載を終了しました)

Entry2
美しい人

 春の日の午後だった。

 小学校から帰ってきた私は、廊下のつきあたりで寝そべり、庭の池の方を見つめていた。
 
 母は死んだ金魚を掬おうとしていた。
 
 母と私はそれぞれの方向から、池の水が揺れるたびにきらめく輝きを見つめていた。緑色、茶色、黄金色、そして透明にも見える水が粘っこくて、つややかで、なめらかな物体に見えた。
 
 母は美しかった。
 それにしても、長い廊下の向こう側に並ぶ部屋のなんと暗いこと。

 玄関から声がし、母は池に伸ばしていた手を止めると、私を見やってから立ち上がり、玄関に向かった。玄関の引き戸がりりりりと鈴の音を立てて開くのが聞こえた。

 私は這い這いして母がいた場所まで行った。暗い空洞の向こうに明るい玄関が見え、上がり口に座っている母の後姿とたたきに立っている男の人がやや影のように見えた。

 お兄ちゃんだ。母の従兄弟で私も何度か遊んでもらったことがある。そちらへ行こうと半身を起こした時、池の中で長い魚体がきらめいたのが見えた。

 池の主?

 私は思わず身を乗り出して池の中を覗き込む。
 こわい顔をした魚がいた。
 雷魚?
 小さな丸い目。とんがった鼻。きつく結ばれた口。
 見ているうちに、なんだかおばあさんの顔に見えてきた。
 見たことがあるような……。

 目と目が合った。魚が、いや、おばあさんが口を開けて飛び掛ってきた。

 目を見開いて、言いながら。
「オマエハコノイエノコデハナイ」

 私は悲鳴をあげて腕で顔を覆った。そしてそのまま、池の中に落ちていった。

 気がつくと廊下に寝かされていた。
 寒い……。
 お兄ちゃんが頭の方に、母がすぐ横にいた。お兄ちゃんはびしょぬれだった。そして私も。母は涙目で私を見ていた。髪が乱れていた。また、私は、母は美しいと思った。

 お兄ちゃんは出征し、帰らぬ人となった。

 母は美しい横顔を歪めることなく、その一報を聞いた。
 あんなに親しくしていた人なのに……。子どもの私には母の気持ちのありようが不思議だった。

 母は私が成人してこの家を出るのを待っていたかのように死んだ。
 私は死んだ母に会わせてもらえなかった。

 今でも、春の陽だまりの中にいると、あの時のことが思い出される。

 母にとって、従兄弟は私であり、お兄ちゃんにとって、母は私なのだ。私が生きていれば、母もお兄ちゃんも生き続けているということか。
 
 家の中は暗い。母が閉じ込められている。でも、母は美しかった。
美しい人 百

Entry3
ムシノカゴ
ヤマモト

 ビ、ビビビビ、っび。
 薄い紙を引き裂く様な音。天井を見上げると季節外れの大きな蜻蛉(とんぼ)が電灯の中で暴れ回っている。憐れなその昆虫は己の羽根が傷付くのも構わずもがき続ける。傘の内側に溜まっていたものだろう、灰色の埃が落ちて来る。
 時生(ときお)はイラつき、側にあった整髪料のスプレーを蜻蛉に向って吹き付けた。
 バチ、びびびびびッ。
 蜻蛉は一層狂った様に飛び回り、最後にはボロボロの羽根や足を蛍光灯に引っ掛けたまま死んだ。
 時生はそれを暫く見つめた後、埃が入ったカップメンを持って立ち上がり、窓を開けて中身を外にぶちまけた。
 下には薄汚れた犬がいて、落ちて来た麺や肉の欠片をぴちゃぴちゃと舐めた。


 外に出ると、昨夜の雨で地面がぬかるんでいる。見上げると太陽がギラついていて、時生は耳鳴りを聞く。金属が頭蓋骨を削る様な。針金で鼻の中を目茶苦茶に掻き回される様な。
 不意にさっきの蜻蛉の死に様が蘇り、時生は唾を吐いた。殆ど黒色の地面に、白く泡だったそれがへばりつく。
 時生は吐き気を堪えている。この施設に来てから、ずっと吐き気を堪えている。


 踵で地面を掘りながら時生は集会所へ向う。もう朝の祈祷が始まっていて、遠くからでも信者達の唱える題目が聞こえて来る。近付く程それは熱を帯び、時生は嫌気がさす。

 集会所につくと時生は中に入らず裏手に回り、ドアの隙間から中を覗いた。
「あんっあんっあんっ」
中では信者の女が幹部の男に犯されている。信者が着る黒いローブは辛うじて女の手足に引っ掛かっているだけで、白い肌は殆ど外気に晒されている。女は鳥肌を立てていて、それは寒さのせいだけではないと時生は思う。
 じっと見ていると女がこちらに気付き、男の顔を乳房に押しつけながら口だけで「あっちへ行け」と言った。
 時生はその場を離れた。


 通り掛かった家畜小屋の入口で砂男が騒いでいる。やぁめぇて、やーめてぇと口に泡をためている。覗くと数人の男が雄豚を雌豚に乗っけて遊んでいる。雄も雌も暴れて傷だらけになっている。毛の生えた薄桃色の体に滲む血。男達が笑う声。豚の悲鳴、砂男の悲鳴。
 時生はウンザリしてその場を後にした。


 宿舎に帰ると犬が駆け寄って来る。カップメンの匂い。

 唾を吐き、顔を上げると晴れた青い空。風に流されて行く巨大な雲。向こうからはまだ信者達の声が聞こえてくる。


 ―――出口など無いのだ。時生は静かにそう思った。

ムシノカゴ ヤマモト

Entry4
古き良き時代
ごんぱち

「師匠、高座お疲れ様でした」
「うむ」
「あの、一つお尋ねしたいのですが」
「なんだ、落醍」
「枕で『最近は女が強くなった』と仰っていましたが、あれは一体どういう事でしょう?」
「お前は若いから知らんのかも知れないが、昔の男はそりゃあ強かった」
「へえ?」
「まず、女を殴った。口応えしようものなら、殴った。やり返したらそれこそ、骨の一、二本では済まないぐらいだ」
「なるほど、警察に捕まる事も気にせずにDVを行うとは、ある意味勇気が要る行為ですね」
「……いや、警察には逮捕されなかった」
「は? 何故ですか? 傷害という犯罪行為でしょう?」
「んーまあ、家族間の暴力に警察は介入しなかったのだ」
「あ……そうなんですか」
「それだけではないぞ。男親は子供も殴ったものだ。そりゃあ殴った。殴りまくった」
「それは間違いなく児童虐待ですね。そんな事を出来る勇気は、見習いたくはありませんが凄いです」
「ええと、これも、警察には逮捕されなかった」
「はぁ……そうなんですか」
「暴力だけではない。うん。飲む打つ買うは男の甲斐性と言ってな、酒は飲む博打は打つ女は買う、豪快にやったものだ」
「ほほう、それは凄い! 売春などした日には、警察に逮捕されるわ、HIVの感染率が跳ね上がるわ、人生を棒に振る可能性が高い、ある意味勇気のある行為です」
「……いや、エイズはなかったし、売春は政府の管理しているものもあって、な?」
「はあ? ええと」
「いや! それだけじゃない! それだけじゃない! 昔の男は全員兵隊に取られて戦争に行ったんだぞ。軍隊で鍛え上げられた男と、今のひょろっとした男、どっちが強い?」
「兵隊だったら確かに強いですね。それで戦争は?」
「ん?」
「戦争には勝てたんですか?」
「勝っ……ては、いないが、それでも心身共に鍛え抜かれたんだ」
「惜しいところだったんですね?」
「いや……かなりボロ負けした」
「そんなの誰がやろうなんて言い出したんですか? 政府はバカの集まりですか?」
「軍部の力が強くてな」
「その軍部に力を持たせたのは誰なんです? 法律でやっぱり決まってたんですか?」
「ああ……うん」
「分からないな、そんなイカれた法律を作るような政治家だったら、選挙で落とすか、革命でも起こせば良いじゃないですか」
「……その……偉い人には、逆らわないんだ」
「……師匠」
「ん」
「昔の男、特別に強くなくありません?」
「……それでもそういう認識なんだよ」