Entry2
姉妹神
百
岩屋の奥で、瞳を閉じ、立ったまま祈りを捧げている少女。少女の身体が柔らかく波打つように光を放っている。少女の身体が強く光った。僕の存在に気づいたのだ。
「おゆきなさい」
僕はその場に跪く。
「僕はあなたを愛しています」
少女は瞳を開き、困ったような表情で僕を見ると、声をひそめた。
「お姉様に聞かれたらどうするのです。もう、おゆきなさい」
「僕は……」
少女は小さい声で早口に僕の声を遮る。
「あなたはお姉様のことを侮っていらっしゃるの?
お姉様はあなたを愛しています。だからこそ、こんなことをしたらあなたを許さないでしょう。おゆきなさい」
少女の声の中に優しさと怯えが混じっているのが僕にはわかる。
「『あの人』がなんと言おうと、僕はあなたを愛しています」
僕の声は迷いがない。
「私は人ではありません。だから人を愛せないのです」
少女の冷たい声が響く。
「『あの人』も人ではないのに、僕を愛してくれていますよ」
「そんな恐ろしい言葉を口にしないで。あなたはお姉様の愛を受け入れたのでしょう。お姉様だけを愛するべきです」
「人である僕が神の愛を拒絶できないことはおわかりでしょう。でも、僕が愛しているのはあなたなんです」
「やめて!」
少女は瞳を閉じ、両手で耳を塞いでしまう。
僕は立ち上がり、少女を抱きしめようと近づく。
少女は僕の気配を感じて瞳を開き、そばにいる僕を見るとうろたえて叫んだ。
「きてはいけません!」
「なぜですか?」
「あなたの存在が危うくなるからです」
少女が哀しげに言う。
「僕のことを心配してくれるのですか……」
「あなたは何もわかっていない!」
少女が叫んだのと同時に僕の右手が少女の肩に触れた。
少女の瞳から涙が一筋、流れ落ちた。
僕は涙を拭ってあげたくて、左手を少女の頬に伸ばした。
光が消え、少女の姿が僕の前から消えた……。
それ以来、僕はひとり漂っている、この世を……。
『あの人』は僕に罰を与えた。
『あの人』を愛することができなかった僕の罪?
『あの人』の妹である少女を愛したことが罪なのか?
『あの人』は僕にこの世での永遠の時間を与えた。
僕の愛した少女は、この世の終わりに次の世界神となるべく、この世の終焉まで人として生死をくり返し、けっして僕には気づかない。
永遠の終わりに少女に会える?
そして、その時、少女は僕のために泣いてくれるだろうか?
その思いだけで僕は生きていける。