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1000字小説バトル

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1000字小説バトル【Rosso】stage2
第14回バトル 作品

参加作品一覧

(2009年 4月)
文字数
1
ヤマモト
1000
2
1000
3
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
4
ごんぱち
1000
5
植木
1000

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Entry1
カレーの王子様、または西条ナンの物語第●幕
ヤマモト

 例えば私がルー小柴の想い人ライ・スーだったとして、生まれ持った容姿や星の巡りに定められた相性なぞで彼の愛を手に入れた所で満足出来ないだろう事は想像に難くなく、だからといってこの熱い想いは成就されるべく私の中に在るのであって、つまり私は私のまま彼に愛されたい。故に私は彼を追って、「ガラム博士の脳内」という危険で奇妙で非日常でありながら全世界的な舞台装置の中へ身を投げたのであった。ナン西条inガラムズブレイン。バッターゼァプレイスイズジエンドオブザワールド!


 幾多の罠をかい潜る。かい潜ってかい潜ってかい潜った先にまた罠がありそれを抜けて初めて本当の意味での最初の罠にぶち当たる。そんな事を繰り返し、私がしているのは前進か後退か、探索か逃亡か、判らなくなる事によって出現する更なる謎を解き明かす事で得られる筈の「彼に近付いている」という実感が全く沸かず、むしろ遠ざけているような感覚。その感覚が巨大な熊という実体を持って私の前に現われた時、その愉快な音楽は聞こえて来たのだった。ガラム脳内に入って三日、或いは三十日、若しくは三年の月日が流れた満月の夜である。

 先ずはヴァイオリンのイントロ、被るアコーディオン、何人かの手拍子がリズムを刻んで遂に彼、ルー小柴の叫びが響く。
 アイマプリンスオブカリー! ダーララララ、ダーララララ、ダーララララ、ダーララララィア!

 広場は昼間のような明るさで、楽器を持った人で溢れている。年季の入った愉快なオーケストラ、ジプシーの楽隊がプリンスオブカリールー小柴を称えているのだと私には判る。物語の登場人物として瞬時に、迅速に理解する。芸術的で扇情的で胸踊る音楽で彼は歌う。ハーディハ、ハーディハ、ハーディハ、ホー! アイマプリンスオブカリー!


 ワナワナと巨大な熊もその体を震わせ感動している。そして私にはその心が判る。ゴー、西条ナン、ゴー。私は熊に一つ頷いてライトに照らされた舞台中央へ躍り出る。
 ダーララ………彼の歌が止まり楽隊の音楽が止まり、私はキッと立ち尽くしている。彼が驚いた顔で問う。どうしてここに?
 私は軽く息を吸うと渾身の台詞を叫んだ。
「だって、会いたかったから!」

 彼は無言で近付いて、そのまま力一杯キックした。私は舞台から蹴り落とされ、ギャハハと笑った楽隊は音楽を再開する。

 着地した私は次の場面に向かうべく、ヒールを鳴らして楽屋に戻るのだった。

カレーの王子様、または西条ナンの物語第●幕 ヤマモト

Entry2
明日

 今日の天気は穏やかだね。風が暖かい。
 私は目を閉じて、太陽に顔を向ける。目を閉じているのに、視界が暖かい赤い光に満たされていくのを感じる。
両手で額を覆うように陽を百さえぎると、目をゆっくりと開け、海を見つめた。
 
 風が髪をやさしくかきまぜていく。

 風の中にかすかにチェロの音が交じって聴こえてくる。波音と戯れるように私の周りに響いて消えていく。
 
 私は風の中に漂うチェロの音を追って砂浜を走り出す。思いっきり。
 チェロの音に近づき、そのリズムに合わせて、くるくるとステップを踏んでみる。
 海辺の冷たい空気を肺いっぱい吸い込んで吐き出す。くり返し、くり返し。
 夢中で走った後は、胸が脇腹が痛むような気がする。
 荒く息をしながら、ドキドキを強く感じる。
 手のひら越しに太陽を見て、意識がくらくらする。
 汗ばんだであろう額を拭ってみる。

 陽が沈むね。
 私は海の中へ入っていこうとするオレンジ色の夕陽を、立ち止まったまま、じっと眺める。

 もう行かなくては……。
 そう、本当はもう行かなくちゃ行けない……。

 チェロの音が止んだ。
 振り返ると、砂浜に座っていたあなたが手に持っていた携帯オーディオを止めて呟いた。
「また、明日。それまで待ってて」
 あなたはため息をつき、海に向かって寂しく微笑んで見せた。
 立ち上がり、ズボンの砂を軽くはたいて歩き出す。砂浜から階段を登り、海から遠ざかっていく。

 去っていくあなたの背中を見つめながら、明日のことを考える。
 明日?
 私には明日があるの?

 暗くなった砂浜でひとり、私は考える。

 陽が沈み、寒くなってきた。風も強くなる。
 何度目かの強い風に乗って、私はふわり、空中に浮かぶ。
 
 明日、あなた『さようなら』って言ってくれないかな。

 海に撒かれた私の身体だった骨と灰。みんなどこかへ散らばっていってしまった。
 
 なのに、まだ、身体の感覚が残っているなんておかしいよね。
 不思議な感じ。
 身体の感覚が残っているのに、記憶はもう少ししかない。
 もう、私の名前も、両親の顔も、どこに住んでいたのか、思い出せない……。どんな友人がいて、どんな物が好きで、死んだ時に何を考えていたのか、思い出せない……。

 覚えているのは、あなたとよくチェロの曲を聴いていたことだけ。
 
 あなたを憶えているうちに、天国に行きたい。

 明日こそ『また明日』ではなく『さようなら』って言ってくれないかな……。

Entry3

(本作品は掲載を終了しました)

Entry4
選挙ポスター
ごんぱち

「撮り直しか……」
 自室の書斎で、机に向かっている四谷京作は大きく溜息をつく。
「どうしました、四谷先生?」
 秘書の光谷祐一が部屋に入って来る。
「ああ光谷君。これだよ」
 四谷は机の上に二つ折りになっていた紙を広げる。
「次のポスターのゲラでございますね」
 ポスターには、党首と握手してにこやかな笑顔を浮かべている四谷の姿があった。
「大田先生も、ああいう事がありましたからね」
「そうなんだよ。この先どう転ぶか分からないけれど、やっぱりな」
「大田先生には申し訳ございませんが、撮り直しでしょう」
「いや、この件については、既に大田先生の方から言われているんだよ。まあ、それは良いんだが」
 四谷はポスターの中の党首をじっと見つめる。
「大田先生の代わりに、何を載せるか、だ」
「副党首の足立先生は――」
「まあ、止めた方が良いだろう」
「……で、ございますね。政治資金関連の問題ですので、芋蔓式に副党首もパクられるかも知れませんし」
「芸能人はどうかな? 美人女子アナとかと、こう」
「どこのキャバクラ帰りですか」
「……そうだ、子供はどうだろう? 幼女を笑顔で抱きかかえたら、好感度間違いナシ!」
 四谷は子供を抱きかかえる手をして、写真用の爽やかスマイルを浮かべる。
「あの、先生」
「なんだ?」
 歯を光らせながら、四谷は返事をする。
「子供と並べたら、むしろ先生のどす黒い内面が目立ってしまうのでは……」
「それを中和させるための幼女だろう!」
「そもそも幼女とか言ってるし」
「……ちっ」
「とにかく曲者にせよ切れ者にせよ、ダーティーさは、今は完全にマイナスですよ」
「まあなぁ……」
「こう、クリーンで、爽やかで、すっきりとしたイメージを無理矢理でも捏造でも後付けでも付け焼き刃でもどうにかくっつけるべきだと思うのですよ。死ぬほど難しいとは思いますが」
「……なあ、ひょっとしてオレの事嫌い?」

「あー、また選挙かー」
 学校帰りの学生達が、選挙ポスターの掲示板の前でふと足を止める。
「候補者色々出てるな」
「んだなー」
「しっかし、みんな悪そうな顔してやがるなー」
「笑顔がキモイったらねーなぁ」
「ん? このポスター」
 一人が首を傾げる。
「……どっかで見たな」
「見た気はするな」
「意図はさっぱり分からんけど」
「投票する気になるのか、これ?」
「さぁ」
 掲示板のポスターの中では、顔の横にレモンを持った四谷が、歯を実物の三倍ほど光らせて微笑んでいた。

選挙ポスター ごんぱち

Entry5
ほんのかず
植木

 山田うんさんのワークショップに通い始めたのは、二月の中頃のことだった。毎週、金曜日の夜に二時間と土曜日の午前中は三時間。未経験者可のオーディションにぼくは純粋な未経験者として参加し、そして何故か受かってしまった。ワークショップが始まってから打ち上げの日までには合格した理由を聞きたいと思っていたのだけれど、最後まで聞かずじまいに終わってしまった。ただ、きっと、聞いてもケラケラと笑ってごまかされてしまったかもしれない。結局、ぼくは一つ疑問を残したまま一ヶ月という短いコンテンポラリーダンサー人生に幕を下ろすこととなった。打ち上げが終わって、皆で東海道線に乗っているときに、なんか来週会わないなんてなんだかすごく不思議な気分だよね、という話になって、そんな気分をなんとなく共有しながらぼくは藤沢で、じゃあ来週ね、なんてありふれたジョークに送られ東海道線から降りた。
 
 週が明け月曜日に茅ヶ崎のS先生の所に行った。これといった話はなかったけれど図書館通いは続けるように指示をされた。翌日になって図書館に行くと知人のNさんに会った。色々とこちらの事情を話すと、あー、じゃあゆっくりしていきなよ、とまるでそこが自分の部屋みたいな返事をした。ぼくはあまりゆっくりしたくはないのだけれど、S先生にとりあえず午前中は居るようにいわれているので、荷物を置いて書棚にむかった。
 一ヶ月も図書館通いを続ければ、本なんてものは世の中に一生かかっても読みきれない程あるという馬鹿馬鹿しいほど明白なことに気付かされる。始めのうちは趣味で選び、そのうちに偶然の出会いを期待したりもしていたが、このごろは全て必然に違いないと心境は変化していた。出会いとは多分そんなものだろう。でも人は、ほんの少し先のことさえわからないで日々を生きているのだ。ぼくは椅子に戻ってDNAの本を読みはじめた。
 ヒトの染色体は46本で23対のペアになっていて、精子と卵子が半分ずつ持ち寄って受精卵を形成する。性別を決定するのはワンペアの組み合わせで、雌雄の決めてのY染色体は精子にのみ存在する、とここまで読んで世の中でいわれる娘は父親に似る、にも科学的な根拠があることがわかった。
 この話を誰かにしたいなと思ったけれど、金曜日に話すチャンスはないと気付いて、あのとき東海道線で話した、なんだかすごく不思議な気分だよね、が皆の声と一緒によみがえってきた。