Entry2
人形
百
陽が落ちてまいりました。灯りをともしましょう。
ほんに陽が暮れる前にこの家に気づかれて良かったですにゃ。
こんな家でも面白いことがあったと。
その人形がしゃべりましたか。それはわしが昔こさえた特別な人形。しゃべりもすれば、舞いもします。あなた様を気に入ったらですけど。
もうしゃべりかけられたのでしたら、気に入られたっちゅうことですにゃ。その人形はあなた様に差し上げましょう。
そうです、差し上げましょ。
あなた様が道に迷い、この家を訪ねていらしたのも何かのお引き合わせ。ほほほ、何のお引き合わせでしょうな。
もったいないなどということはありませんよ。
あなたは昔、人を殺めたことがおありですか。
なにを怒っとりますのん。
その人形が尋ねておいでですにゃ。
その人形には幼くして殺された娘らの髪を植えとります。そのため、人殺し、特に幼女を殺めたことがあるかと尋ねずにはいられないのですよ。
本当のことを答えておあげなさい。この婆がいると答えにくいですかな。それでは、わしはさがりましょう。はい、ここに居て欲しいと。あなた様、震えていなさるか。
その人形をこさえたのはわしですじゃ。何故、こげな気味悪かもんをこさえたかって。気味悪かことないでしょう。みんな可愛か娘でしたもんね。
この婆を残してみんな殺されてしもうた。この婆もこの娘らと同じ年頃の娘でしたんじゃ。この娘らは殺されることは怖くはなかったんじゃ。この娘らは喜んで殺されたのですもん。けど、生き残ったわしからしてみれば不憫でな。土をこねて簡単な人形をこしらえ、娘らの髪を植えたったです。何しろ幼い子どもの手ですから、土くれのような人形でした。それが今はどうです。年月というものは不思議ですにゃ。
よく人形の顔を見てやってくださいませ。
好いた男のため、幼いながらも美しく見せようと艶やかに微笑んでおりますでしょう。
そして、人形の黒髪を見てやってくださいませ。
好いた男がなでてくれた黒髪を誇りに、その感触を忘れたくないと光っているのです。いまだに、好いた男に手に触れて欲しいと、そこだけに魂をこめて生きて、誘っているのかもしれません。
どうぞ、手にとってごらんなさい。人形もそれを望んでおります。
その娘らを殺めた男のことですか。もう、昔の話です。男ということしか、この婆は覚えておりません。
あなた様は男ですね。それだけで充分です……。