Entry1
さらさら
3737☆★
さら
まっさら
さらさらさらさら
目の前は銀世界で手足は氷のように冷たいのに、ザクザクと進む先にはまだ何も見えてこない。雪国に生まれついている者やスキーやスノボに来ている者にとっては、こんなことはザラなのだろが、これが昨日「採用おめでとう、で……」といわれた先の赴任先。真っ白な白紙に、あの契約書をこの雪のように白紙に戻してしまいたい。そう呟きながら、まっさらな雪の上には一人分の不慣れてふらついた足跡があり、横には慣れた先人の歩行用のスキー板の跡。サラリーマンになんてなるんじゃなかった。
小さな町の大きな会社の小さな支店。
しんしんと降りしきる雪に、だるまストーブ。それが冬のセット商品。当直の日も雪はただ降りしきったけれど、一人でひいひい言いながら雪を掻いた。出ないと屋根が重みに耐え切れないから。近くの森はバサリと音を立てて枝から勝手に落ちるのに、こちらはズシリと重いスコップを、暑い思いと寒い思いをしながら、汗をかきかき掻いていき、中に入って体中の雪を払う頃には夜が白み始める。
さらさらと陽が今まで掻いていた雪をさらして、きらきらと今までの苦労なんざ忘れさせるくらいに綺麗だった。
しん
しんしんと
でも、それもさらりとやめられる日が来た。栄転でもなく転職でもなく、単に会社が立ちゆかなくなって、さらりと俺はあの日の雪のように投げ出された。最後に出て行くことになったあの日には少しの木炭が雪のように白い灰になりかけていた。外を見れば、雪解け水の滴ってきらきら光る氷柱がたれさがっていた。
あれから、一度も雪はみていない。
雪国とはかけ離れた地元の町工場に再就職して、朝も夕も関係なく真っ黒になって働いた。でも、ひとり、またひとりと職人仲間もいなくなり、悲喜こもごもしながらその町工場もしまることになった。
こうしてこの雪の降りしきっていた町にきてみた時にはいい年をとって、手も足もガサガサですっかりおじいさん。
なにやら道には水が出るようになっていた。あの小さな町は、あるにはあるけれどもどこかの市と合併したとかで、面影は何一つ残っていなかった。さらに残念なことに、あの雪の、どこまでも続く雪も、例の道路の関係で切れ切れのパッチワークのようになっていた。
感慨にふけっていたところで何も始まらないのはもう分かってる。けれど、ズシンとあの雪の重みが思い出されて、綺麗そうなところを手にとって、新雪を味わった。旨かった。