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1000字小説バトル

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1000字小説バトル【Verde】stage2
第11回バトル 作品

参加作品一覧

(2009年 1月)
文字数
1
ウタタネマクラ
1000
2
1000
3
ごんぱち
1000
4
SuzzannaOwlamp
1000
5
秋尾十一
705
6
ヤマモト
1000

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Entry1
十六夜秘話 2.悪魔
ウタタネマクラ

 瓶を振ると、それはごろりと横に転がった。
 きい、という鳴き声は、明らかに何かの生き物で、濡れたように黒く、人間のような手足をしていた。
「本当に捕まえた」
 “ヤモリ”が居たことを忘れていて、その声に啓子はびくりとした。
 鍵の壊れた貴重文献室は暗く、埃と古い本の匂いがした。
「僕にも貸して」
 ヤモリの手が啓子の指先に触れた。冷たいくせにねっとりとした感触。啓子は手を拭いたかった。いや、拭っただけではだめだ。ヤモリが触れた部分はきちんと消毒しなくては。でないと大変なことになる。
 飼育小屋での時もそうだった。
「啓子ちゃんは悪くないよ」
 トレーナーに包まれて動かない兎。
 ほんの出来心だった。ほんの一晩兎と一緒に寝れたなら。そう思って連れ帰った。
「もともと弱ってたんだ」
 鞄に忍び込ませて、誰にも見られないように小屋まで来た筈なのに。
 ヤモリは啓子を責めず、ただ目を細めて嬉しそうに、啓子の手に自分の手を重ねた。ねっとりと。
「二人だけの秘密だね」
 言い知れない屈辱感に、気がつけば口走っていた。
「平気よ。悪魔を呼び出す方法、知ってるもの」

 突然生き物が暴れ出した。
「逃げようとしてる」
 縁の部分が歪んでいるために、蓋は今にも開きそうだ。
「貸して」
 瓶をひったくったものの、どうしていいか分からなかった。
 蓋が弾けとんだ瞬間、啓子は一息に悪魔を飲み込んだ。

「兎、生き返らせられなくなっちゃったね」
 夕闇の中、長く伸びる階段をヤモリの影がぴょんと跳ねた。
 ちらと振り返り、目を細めて啓子を見つめる。
 この目だ。
 肌に滲むような視線。啓子はこの目が大嫌いだった。
「兎はだめだけど」
 啓子は、ヤモリの影を踏んだ。
「私、今何でも出来そうなの」
 影が消えた。

「お母さん」
 啓子は飛び起きた。
 汗で、服がびっしょりと重くなっていた。
「ただいま」
 息子の笑顔にほう、と息をつく。
「おかえり。お母さんうたたねしちゃったみたい」
 覚醒しきっていない頭が、過去を反芻する。
 あれ以後、ヤモリの存在は記憶から切り取ったように消えている。
 私はあの時悪魔を本当に呼び出したのかしら。そして、本当に飲み込んだのかしら。啓子は思った。
 だとしたら、悪魔はどこへ?
「お母さん」
 息子は、よくここまで手のかからない子に育ってくれたと思う、天使のような子だ。
「お母さん、僕知ってるよ」
 息子は目を細めて啓子を見つめた。
「二人だけの秘密だね」
十六夜秘話 2.悪魔 ウタタネマクラ

Entry2
一つだけ、足りない

 切れ長で落ち着いた感じの澄んだ目。艶のあるウエーブヘア。すっとなめらかに通った鼻。誰だろう? なぜか懐かしさがこみ上げる。思い出せない、思い出せないんだ。
 ショップ99に信じられない美少年がいた。樋口可南子に似ている。オレンジ色のエプロンに目を逸らし、震える手で釣り銭を受け取る。商売柄、綺麗な顔は見慣れているはずの僕が。レジの向こうにいる彼は、ありがとうございました、と心のこもっていない声音で言う。軽い敗北感を覚えつつ、店の自動ドアをくぐる。今年一番の木枯らしが頬を打つ。まだ動悸が止まない。
 朝焼けと白い息が切ない仕事帰りに、彼の顔を見るのが日課になった。週三回、朝からきちんと無愛想な顔で僕に一瞥をくれる。この店の店員は、名札をしていないから名前はわからない。当然、話をしたこともない。ときおり若い女性の店員と楽しそうに話をしている。彼女はいるのだろうか? 今日は気になって仕方ない。ショップ99の向かいにあるファミレスに入って窓際の席を陣取り、彼の仕事ぶりを眺めた。至って普通。顔に惚れ惚れする以外は。タバコを吹かし、ドリンクバーで数時間粘る。あくびが止まらない。昨日調子に乗ってドンペリを飲み過ぎた。
 小腹が空いてドリアを突いていると、エプロンを外した彼が店を出るのが見えた。素早く会計を済ませ、コートを羽織って外に出る。
 彼を追って、駅へと向かう。こんな昼間にもう家に帰るのか? 彼の乗った隣の車両に乗り込み、様子をうかがう。彼はおもむろにバッグの中からヤスリを取りだし、爪を磨き始めた。女みたいなやつだ。理性では驚きつつも、電車の振動と車窓の風景が眠気を誘う。一瞬、彼と目が合った気がした。眠気が吹き飛ぶ。
 彼の行き先は、保育園だった。子持ち? 一体、何才なんだ? 彼とマフラーを巻いた小さな女の子が手をつないで出てくる。まっすぐ僕のほうへ来る。一本道で住宅街、急いで逃げると逆に怪しい。幸い気づいている気配はない。彼は女の子と楽しそうに話しながら、僕の前を通り過ぎる。
「いい加減にしてくれ、な」
 立ち止まって彼が言う。女の子が僕の顔を見て、あー、ママだー!
「お前はもう男だろ?」
 元夫とは残酷なものだ。せっかく思い出さないようにしていたのに。染色体が一つ足りないんだと答えた。なんでやねん! 女の子、メグが私の股間に触れた。マフラーを直しつつ、ニシシシと笑い、つられて彼も笑った。
一つだけ、足りない 葱

Entry3
ようかいババア
ごんぱち

 高校生の四谷京作は、田んぼの中の農道を自転車で進む。
「あー、寒いな……」
 ペダルを踏みつつ、四谷は片手で詰め襟のホックを締めようとするが上手く出来ない。
「このっ、くぬっ!」
 かじかんだ手で、小さいホックと奮闘していると、カゴに入れた鞄から、バイブ音が聞こえ始めた。
 四谷が自転車で走りながら、鞄のポケットから携帯電話を取り出し、開こうとした瞬間。
「こりゃああああっ!」
「どぶぷっわああっ!」
 四谷は大きくバランスを崩したところを、足を必死に踏ん張って何とか持ちこたえる。
 振り向くと、一人の老人が立っていた。
 腰は地面に着きそうな程に曲がり、歯は所々抜け落ち、白髪は薄く、ガリガリに痩せた腕は簡単に折れそうで、襟元から覗く肋は遠目からでも数えられる程に浮き出ていた。
「な、な、なんだ、いきなり!」
「携帯電話を使いながら自転車に乗ってはいかん……恐ろしい事じゃ、なまんだぶなまんだぶ」
「あんたの声の方が危なかったろ! こんな人通りのない道で事故なんかねーよ」
「事故ではない、自転車に乗りながら携帯電話を使っていたら……よう、かい、ババアが……ううっ、恐ろしい、恐ろ……あ、待て、待つんじゃあああ!」
 四谷は自転車を再び走らせ、一気に老人を振り切る。
「この科学万能の二十一世紀に何を言ってるんだあいつは……で、ええとメールは」
 画面に目を向けようとすると。
「ちょっとあなた! 自転車で走りながら携帯電話を使うなんて、危ないでしょう!」
 怒鳴り声がすぐ隣からした。
「い?」
 ほぼ全力で走る四谷の自転車のすぐ脇を老婆が走っていた。
「で、で、でた、妖怪ターボばばあ!」
「誰がばばあかああっ!」
 老婆は手製の水鉄砲で、四谷の携帯電話に液体をかけ、走り去った。
「なんだ、あいつ……えっ?」
 四谷が再び携帯電話に視線を戻すと。
 携帯電話にかけられた液体がブツブツと泡を出し始めていた。液体は泡を出しながらどんどん広がり、携帯電話の形が崩れていく。
「うわあああっ!」
 四谷は携帯電話を放り投げ、そして、そのままバランスを崩して派手に転倒した。地面に落ちた携帯電話は、グズグズに崩れ原型も分からぬ液溜まりと化していた。
「きゅぅ……」
「だから、言ったろう」
 老人は伸びている四谷を悲しげに見つめる。
「中島ハツさんは、交通安全にうるさい上に、薬品の扱いに長け、足腰は死ぬほど丈夫なんじゃ」
「……恐るべし、溶……解、ババア」
ようかいババア ごんぱち

Entry4
おもしろやくざ
SuzzannaOwlamp

 狭い事務所に青のブレザーを着用した組員が、黒のスーツ姿の組長のソファを取り囲んでいる。各々、携帯電話をいじったり、組員同志が雑談したりしている。組長は、どこかの政治家と電話で話をしているようだ。
 組長は受話器を下ろし、事務所にいる組員全員に、声を掛ける。
「次の選挙に向け、全国ののあほぼんにハイヤーを手配しろ。自ずから立候補する輩を推薦するのだ」
 組員一同は、知る限りのあほぼんを自宅訪問した。
 集まったあほぼんから世の中をこう変えたいという声が多数、寄せられた。
「夜空にもうひとつ月を増やしてみるのは、いかがでしょう」
「お前は、ほんまにあほやな。夜空に太陽を浮かべんかい」
「お前らどうしようもないあほやな。太陽を浮かべたら夜が夜やなくなるやろ」
 組長は、手を叩いた。
 あほぼんたちは目を丸くし、組長のほうを向いた。
「君たちは、何を目標に暮らしているのだね。是非ともお聞かせ願いたい」
 一人のあほぼんが言う。
「世の中を笑顔で一杯にしたいっす!」
 組長は、少し俯き、彼に手を差し延べた。
「よし、お前は今日から、小笠原寿夫と名乗れ。いいな? 本名を口にするな。わかったら、ハイと言え」
「わかりました、組長!」
「ハイと言え!」
「わかりました、組長!」
「ハイだ!」
「ファイ!」
 組員は、小笠原寿夫になったあほぼんにひとつ質問をした。
「お前が、総理大臣にもし仮になれたとして、世の中をどう変えていくつもりだね。是非ともお聞かせ願いたい」
「ファイ! EをNに変え、NをFに変えたいです!」
 組長は、頷いて答える。
「良い答えだ。その理想を忘れるな!」
「ハイ、組長!」
「ちゃんと言えてるじゃないか」
「ファイ!」
 したたかさを全面に押し出した組長の思惑は、見事に的中した。おもしろ組のおもしろ組長は、おもしろ総理大臣を夭折し、おもしろ国家が誕生した。
 そうして見事にEはNとなり、NはFとなって、おもしろ国家憲法第九条に次のような条文が盛り込まれた。
改正前『日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力の行使を永久に放棄する』
改正後『フィッポ布告ミフ夫は国際はにわを巣に実フィ希求し古今夫夫フォ発動たるすんフフ創と武力フォ行使を二位究フィ放棄する』
 そうして、良い国が再生し、出来上がった国はンを最優先させた。
 創始天、良い国が財布にし、電気上がった巣に府はファを最有辛さすんた。
おもしろやくざ SuzzannaOwlamp

Entry5
バジル
秋尾十一

 「なあ」とマサオが言った。「バジルって、強そうだよな」
 高校からの帰り道。マサオがまた、ヘンなことを言い始めた。
 「バジルって、あの食べ物のバジル?」
 「そう、そのバジル。バジルって、なんか強そうな響きじゃねぇ? バジルパンチ! バジルキック! バジルマン参上!! だはははっ」
 「違うよ」とぼくは抗議した。「バジルってのは、清楚な響きじゃねぇか」
 ぼくは、自分の声が意外に真剣なのに、驚いた。
 「バジル子さんはなあ、エプロンを着て、きちんと朝食を作ってだなあ」
 「裸にエプロン?」
 「そんなんじゃねぇよ!!」
 「おいおい、そんなムキになんなよ」
 「訂正しろ! 何がバジルマンだ!」
 「いいじゃねぇかよ。『バジルマン』の方が『裸にエプロン』よりおもしろいだろ」
 「『バジル子さん』だっ!」
  マサオのそういういい加減なところが、前からいやだったんだ。
 「何だよ?」
 「何だあ?」
 「やるか」
 「やんのかよ」
 その時、だった。
 「やめなさい」
 女の人の声がした。やさしい声だ。
 ぼくが振り返ると、バジル子さんがいた。
 「やめな」
 男の人の声がした。力強い声だ。
 バジル子さんのとなりに、バジルマンがいた。
 「私達は夫婦なの」とバジル子さんは言った。「私達はとても仲良く暮らしているわ。だから、あなた達がケンカする理由なんてないわ」
 「そうだ」とバジルマンは言った。「君達、私達の子どもにならないか。そうすれば、くだらないケンカをすることはもう二度とあるまい」
 「そうね。それは、いい考えだわ。どう?」
 ぼくは、マサオと顔を見合わせた。瞬時に、ぼくらの意見は一致した。
 「やめときます。ぼくら、バジル苦手だもの」
バジル 秋尾十一

Entry6
ベイビー、君の思うままに
ヤマモト

 なんつーのほら、あたしって、可愛いからさ。ほら、悪い虫? つくよね。そゆ時にさとりあえず指に? してたらとりあえずさ、あーこの子あれだって、駄目だって、わかるよね。

 ほら、陽子んとこもさ、ほら、一年? の記念? とか言ってさ、ピンクシルバーでさ、ペアで? 結構キュートなの、二人でつけてんのって、ね?

 だからさ、なんつーの? ほら、ね?

 てゆーかあれじゃん、あたしおしゃれじゃん? 流行とか、雑誌? ちゃんと買ってさ、「この冬はロングダウンで綺麗なお姉さん♪」とか、言っちゃってる訳。「目指すはハリウッドセレブ!」みたいな?
 で、ほら、ネイルとかもね? するじゃん当然。「デキる女は指先まで気を抜かない!」みたいな?
 ただあれじゃん、つけ爪とか、注意されたりすんの。仕事出来ないでしょ沢田さん、とか、おつぼね? が言ってきたりさ、するじゃん? 男には分かんないかもしんないけど?

 その点さ、ほら、あれだったらさ、さり気なくさ、ほら。ゴールドでもさ、石? とか? 入っててもさ、別に邪魔じゃないし、おつぼねも何も言わないし?
 でも可愛い、みたいな?

 ………。
 ほら、あたしギャルだけどさ、てゆっかギャルもプライド? 持ってやってんだけどさ、やっぱ心は乙女なまま? みたいな。少女時代を捨て切れてない、みたいな側面? ギャップ? みたいなとこもある訳。わかる? そういう気持ち? 微妙かつ繊細な、ナイーブ? え? デリ……デリバリー………違う、デリバート? ん?

 ………ちょっと、笑ってんじゃないわよ。
 だからさぁそういうあんたの失礼なとこも含めて言わせて貰うけど! 親しき仲にも礼儀ありっつーの? マジ昔の人はいい事言うよ? っていうね。正にあたし達が今抱えてる問題っつーのはそういう事な訳。
 別に覚えてた訳じゃないけど? もうすぐ二人が出会って三度目の季節? みたいな。色々あったけどここまで来たねっていう記念? けじめ? とか? あっていいと思う訳。したらさ、物より思い出とか言うけど? 形ある物ってより大事にするじゃない? より大事にできると思うの。いや、あたしだったら超大事にしちゃう。うん。肌身離さず? みたいな………。


 …………。

 だからさ、なんつーの、ほら、ね?

 ほら、…………。


 だから…………。




 ……あたしに、指輪、下さい。


 ………。

 ………。

 ………何よ。


 笑ってんじゃないわよ!