Entry1
同居人
百
ドアの開く音。同居人のがんちゃんが帰ってきた。
出迎えようと居間のドアを抜けて玄関へ出ると、がんちゃんは後ろ向きのまま静かに玄関の戸を閉め、こちらを向き、あたしの顔を見るとちょっとうろたえた。
「起きてた?」
何?
出迎えなかったことなんて今まである?
なんかあやしい。
がんちゃんはそろそろと靴を脱ぐと、そのままの足取りで居間に入っていく。
あたしはがんちゃんの背中を立ち止まって眺めてから、ゆっくりとついていった。
がんちゃんはちゃぶ台の上に白い小さな箱を置き、座った
「あのさあ、キナコにちゃんと言ってなかったけれど……。俺、キナコが大好きだよ」
そんなこと言われなくてもわかってる。
あたしはがんちゃんの向かいのローソファーに座る。
「キナコのこともちゃんと大切に考えてる。だから、ちゃんと病院にも行ってきた」
病院?
「もし病気があって、キナコにうつしたりしたらいけないからさ……」
えっ?
あたしはがんちゃんを見つめる。
「ちゃんと検査してもらったら、病院の先生も大丈夫だって」
それはよかった。
でも、がんちゃん、何の話をしてるんだろう?
あたしは居心地の悪さを感じて、もう一度座りなおす。
その時、白い箱の中で何かが動いた。
思わず立ち上がりかけて、身構える。
「大丈夫だよ。あのね……。仔猫なんだ」
仔猫?
いぶかしげな表情で首をかしげたあたしを見て、がんちゃんがやさしく言った。
「キナコも気にいると思うよ。真っ白い仔猫でさ。女の子」
がんちゃんがそっと箱を開ける。
「ほら」
ローソファの方へやって来て、あたしの隣に座る。
がんちゃんの手元を覗き込むと箱の中に小さい白い毛玉のような物がぽよぽよ動いている。
あたしはがんちゃんの腕に手を掛け、がんちゃんの顔を見上げた。
「ねっ、かわいいでしょ」
う~ん。
「2日前に保護してね。飼い主も探したんだけど、見つからなくって……」
がんちゃんは申し訳なさそうに言う。
がんちゃんの優しさはあたしがよく知っている。
「このマンション、ペット可だし、キナコも喜ぶかな……なんて思って。どうかな?」
あたしは重々しくうなずく。大歓迎というわけにはいかない。
「名前も考えたんだ。おもちで、もっちーってのはどう?」
もっちー?
「明るいキナコ色の茶トラのキナコと白いおもちみたいなもっちー。よくない?」
……まぁ、あたしはいいけどね。
尻尾をぱたりと振って見せた。