Entry1
ハクチョウ・ステーション
百
私と夫はハクチョウ・ステーションに向かった。
今日は銀河鉄道のイベントがあり、ハクチョウ・ステーションからオオクマ・
ステーションの間を特別臨時特急が走るのだ。
私達はハクチョウ・ステーション発の切符を手に入れることができ、わくわく
しながらステーションホールに足を踏み入れた。
あちこちでフラッシュが光り、カメラやムービーを手にした人々でいっぱいだ
。
ハクチョウ・ステーションのすごい所は、ホームにあると思う。列車が到着し
たり、発車するたびにホームが一番最適な状態に変化するのだ。人々をその上に
乗せたまま。微かに虹色の光を放ちながら変化していく様は見ていて飽きない。
そしてホームの上、列車に乗り込む最適な場所に並んでいることに気づくのだ。
ホームの真ん中で歓声が上がり、イベントのゲストが登場したようだ。
人波の中に少女と少女より少し年上の少年と白と黒の動物が見え隠れした。
アナウンスでアルプスの少女ハイジとその友達ペーター、そして3匹のヤギだ
ということが判明した。
「おじいさんのヤギのはくちょうとくま!」
私の言葉に夫が頷きつつ付け足した。
「そしてゆきちゃんだ」
私はちょっと口を尖らせた。
「ステーション名にかけて、はくちょうとくまなら、ハイジとペーターじゃなく
て、おじいさんとヨーゼフの方が良いな」
夫は苦笑しながら私を見る。
「はいはい、いつものけちつけね」
「けちつけじゃないよ。私だったらそっちのほうがいいってこと!」
カメラを向けてみたが、うまく写りそうもないので、すぐ諦めた。
「列車はあとどのくらいで到着するの?」
「あと2~3分ぐらいかな。10分ぐらい停車してそれで定時に出発だよ」
夫が時計を見ながら答えてくれる。
私はホームの動きを感じて、下をじっと見つめた。
「そうだね。ホームも準備してる。もうすぐだ」
私はそっとしゃがみこむとホームにやさしく手をついた。虹色の微かな光が人
々の足元に広がっていく。
「あぶないよ」
夫が周囲を気にして立つように促す。
「うん。もう来るね」
私が立ち上がったと同時にホームの端っこから歓声があがった。
「信号が青になったらしい」
夫が呟きながら、遠くを見つめる目をする。
私はカメラを構えて特別臨時特急が入線して来るのを待った。
ホームが緩やかなカーブに変化した。
「ありがとう」
私の言葉に夫が振り返った。
「ホームが列車を見やすいように動いてくれたんだよ」