Entry1
こんなはずじゃなかったのに
小笠原寿夫
ギィー……ガチャガチャ……ギィー……ガチャ、スポッ
右の胴体から背中にかけてオイルを差してやると動きが断然よくなる。後ろの方からラジオ音が聞こえたと思ったらそれは何やら説教にも似た懐かしい声だった。まさか幻聴かと思いきや振り返ると、大きな丸い物体がまさに地球を思わせる球体に目を奪われる。するとそこへ鼠が現れた。核兵器を持ち出したその球体は機械音を立てながら鼠を攻撃し始める。なんとかなだめすかしてその球体を止めると今度は見たこともない古道具が飛び出した。何でもどこへでも行けるというその扉の向こうには美女が浴槽に浸かっている。
「きゃあ」
と鳴くその美女から水を浴びせかけられあわや大惨事に見舞われるが如くに逃げ帰る。さてこの球体、始末に終えぬとやや不思議。風呂敷を出したと思えば中から小さな球体が……。このまま行くと厄介者のこの球体、増殖しかねないぞと急いで押し入れの中に押し込み布団をかける。嬶が帰ってきたから言い訳をどのように取り繕うかと思案の末、出した答えが猫を飼っている。嬶が階段を降りていくのを見計らい球体を窓から放り投げるとその球体から竹とんぼが飛び出して中空に舞い上がる。帰ってきた球体にややもすると不死身の産物に仕上がったかと我が罪を償うつもりがこの球体、ラジオ音で慰めを述べ始める。なんぞやと聞いていると今度は風呂敷から茶菓子を取り出し私に持たせる。何時なんどき如何なる時も肌身放さぬその風呂敷包みのずしりと重いこというなれば一見の平屋建てを片手で持ち上げるが如し。一世一代の大博打にてその球体を磨いてみるに塗装が剥がれ落ち中から銀色の物体が……。洒落にならぬと球体に抱擁してみると風呂敷からは工具とプラモデルがわんさか出てくる。
何ゆえならぬ何をばせんとこれを見やるに風呂敷の隅に小さな説明書。ここぞとばかりにプラモデルを作り出すとこれがなかなか面白い。完成品を見上げると大きな机と椅子になっている。備品のコンセントプラグを差し込むとぴっかりライトが点灯す。なにごめなにごめ文句を唱えるとスケジュール帳とシャープペンシルが入っている?さあ働けといわんばかりにこっちを見やるその青い球体は猫型ロボットに似ていたとかいなかったとか……。その球体に緑色を加えると丸い地球を彷彿とさす柔らかな球体に……。茜差す窓から斜に光るその球体をもう一度転がすと風呂敷に包んで粗大ごみの袋に入れた。