Entry1
自信家AV女優
小笠原寿夫
「揉みたければ揉みなさい」
やかんの湯が沸点を通り越した頃、大きな目をした黒髪の女優が、そう言い放つと金の玉を三本の指で触り始めた。牛乳を飲み干しみるみる勃起してゆく私の股間は、赤く腫れ上がり大きな木の棒になっていった。
「足を拡げましょうか?」
どちらともなく、そう言うと、見事な裸体が二人を交錯し始めた。示唆するものは何もなく、それだけが私を冷まし続けた。寧ろ、醒まし続けた。
「いいわね、私の言う通りにするの。もっと下。そうよ、そこがクリトリス。覚えたわね」
グリングロスで磨く私と、スパラで吸う女優。国会議事堂前で屯座する若者たちには、何のことだかさっぱりわからない。股をまさぐり、父に溺れながら、木の棒になった私の股間は、その穴に吸い込まれてゆく。
ブラックホールにも似たその穴は、ぎゅうぎゅうと私を締め付け、そうして私をさらに固くした。
ゼリーと蒟蒻を食べた私は、次に照り焼きチキンバーガーを欲した。
「あぁ、素敵よ」
そんなことを叫ぶ女優を抱き締め、こんなことを思う。
「アカン、ごっつ気持ちエエわ」
前戯を終え、ペッティングを済ませた後、屁を噛まし、ティッシュに手を遣り、コンドームをつける。中に溢れ出すザーメン。それを感じる女優の体。快感が恋へと変わり、やがて、ひとつの宝が出来る。逸物である。
「さぁ、何が食べたい?」
私は、野菜ジュースを欲した。スーパーの袋を重たげに抱えながら、私は、小さな子供のように、それをぶら下げて帰ってきた。
「いい? 私、出来ちゃったみたいなの」
私には、何のことやらさっぱりわからなかったが、私は私の化身となった。
「あなたの息子は、とっても賢い子よ」
訳がわかったようなわからぬ様なまま、私は野菜ジュースを飲んだ。ふらつく足で焼き肉を頬張ると、もう一度、サニーレタスを口に運んだ。その快感が、女優改め女房の快感に似ていると気付き、ふと父を思う。
――私の父もこの思いを持ったのだろうか――
嬉しさを通り越し、幸福の絶頂にまで達した頃に、私は私に萎れていくのが、みるみるうちにわかった。私の今は私の未来。密室に閉じ込められた私は、廊下を通り抜け、階段を降り、母を遠く思う。人間の真の姿が動物と然して変わらぬことを私の体が立証する。卵が先か、それとも鶏が先か。それに対する答えすら、私にとっては、まだ見ぬ境地。目の前で焼き肉を食べる女房を見ながら、私は、鯖の塩焼きを食べたいと思った。