Entry2
「生まれて」からすること
相馬
さて、こんな状況も珍しいのではないだろうか。いや、もしかすると故人皆シチュエーションこそ異なれども、私と同じような立場になっていたのかもしれない。私と同様数時間かそこら眠って、目覚める。最初は当然のように何がなんだか分からず途方に暮れるしかない。そうして徐々に何が起きて今どうなっているのかを悟るのだ……多分。だってそうだろう、私は「生まれたて」で曖昧なことしか言えはしないから。
私が目覚めたのは病院のベッドの上だ。背中にあるのがもしかするとベッドではなく、会議用の折畳机というなんとも粗末なものであったとしても、まあいいか。感覚が欠落しているから別に痛くもない。視界の限りここは病院で、だから私は背を病院のあの寝心地抜群ベッドだと信じている。周りの景色が見えるが瞼は閉じられているであろうと考えたのも一般的思考故だ。
周囲に家族が勢揃いしていた。皆が目を赤くして私を見る。見つめ返すが……お前たちこそ本当に私を見ているのか?目が合っている気がしないのだが。
なぜだかひどく冷静で、私は少しも悲しくなかった。いや、愛する妻と三人の子供たちの目に残る涙を拭ってやれず、尚且つ私が原因なのも……とても悲しいよ。しかし、どうしても私には自分がこの肉体から離れて天国や地獄、もしくは次の世か、分からないが家族と離れてどこかへ去って行く予感がしなかったのだ。
蝋のように堅くなってしまった身体はどこも動かない。表現を変えると、私の身体を型どった鉄の型に再度閉じ込められたような自由のなさだ。ああこれは結構堪えるな。分かるだろうか、意識があるのに何もできないのだ。もちろん心得ている、私は死んでいることを。意識が死んでいるのにフラフラ動きまわっている方が酷だろうか。たしかに、それはそうかもしれない。
結局動けるとすれば何がしたいのかだ。欲深だと報われないのが世の常だ。少し考える時間が欲しいと一瞬思ってしまったが、どれだけ考えてもきっと私はこれしか思い浮かばないのだろう。
「ごめんなさい、そしてありがとう」
そう言いたいよ。私の家族に沢山の思いを込めて、これだけを送りたい。きっと分かってくれるはずだ。私の最も愛した人たちだから。
さて、少し疲れてきた。もう一眠りしようか。瞼は閉じているのか、一体どうすれば……、ええと……