Entry1
星空
小笠原寿夫
「お父さん、眠れないよ。」
私は、夜中に父を叩き起こして、そう呟いた。
「もう、寝なさい。」
父は、子供だった私に、優しくそう言った。
「お父さん、あの星を見てよ。すごく綺麗な星空だよ。」
「いいか?星っていうのは、常に内部で爆発を繰り返しているんだよ。こうやって寝転がっている間にも、光を灯し続けるには、すごいエネルギーが必要なんだ。」
眠れない私を諭すように、父は、続けた。
「だから、人が眠ることにもちゃんと訳があって、眠りっていうものにもエネルギーが必要なんだよ。だから、夢が見られるんだ。」
私には、よく理解できなかった。夢というものの存在は、人間の内部で、莫大なエネルギーを必要とするものなんだ。そう認識した。
その夜、私は、夢を見た。
形のないものは、形にはならない。
そう思いながら、私は、夢を見る。夢というものが、夢でありながら、現実とどこかで結びついている。そう思った瞬間、目が覚めた。
寝息を立てながら、横たわる父を見ながら、この人は、私をどこまで理解してくれているのだろう、と思い、ベランダに向かった。まだ、夜明けには、程遠い空の闇に、星が瞬いていた。
「あの星ひとつひとつの周りに、惑星があって、そこに、宇宙人がいたら、会いたいな。」
夢現に、そう思った瞬間、父が起きてきた。
「宇宙にはね、生命は存在しないんだ。何故なら、宇宙空間そのものが、我々の幻想に他ならないからなんだよ。」
「じゃあ、どうして星は目に見えるの?」
素朴な疑問が降って湧いてきた。
「核融合を繰り返して、人間の目に、そのエネルギーが届くからだという説も一理あるけど、お父さんの考えは、少し違う。」
「お父さんは、どう思うの?」
私は、尋ねずにはいられなかった。
父は、即座に答えた。
「人は、生きるだろう?その上で色んなものを犠牲にしている。魚であったり、牛であったり、米であったり。そのひとつひとつが、夜空を映し出す星々なんだ。」
「じゃあ、なんで人は死んじゃうの?」
「グラビトンさ。」
私は、不意を突かれた。聞き馴染みのない言葉に興味が湧いた。
「地球には重力があるだろう?それは、素晴らしいことなんだ。人が重力子に逆らえば、天に舞う、ただの星屑になってしまうんだ。だから、人が地面に足を付けていることが、どれほど素晴らしいことなのかを人は、忘れがちなんだよ。明日も学校だろう。早く寝なさい。」
翌朝、父は、「おはよう。」と普段通りの笑顔を見せた。