Entry1
ジャポニカ
小笠原寿夫
「私、日本落語協会フランス支部の角田と申します。」
そう言って、名刺を差し出した瞬間、私は、角田へと変身を遂げる。
"von gior."
受付の女性は、軽く会釈をした。視線を逸らさず、パリッとしたスーツ姿を披露すると、私は、プリンと決まっていた。
日本の未来を決める、この会談では、世界落語協会のメンバーが、舌戦を繰り広げる。
"fucking jap talks in the restraunt.it's Japanese rakugo."
(日本のクズがレストランで話してる内容。それが日本の落語だ。)
"oh、hahaha! any children enjoy funny rakugo."
(おっ、ハハハ! どこぞの子供が、けったいな落語で喜ぶんだ?)
"would you make me act Japanese rakugo、Mr.Tsunoda?"
(私に、落語をやらせてくれないか、角田さん。)
相手の連中は、皆、落語を馬鹿にしている。鼻の高い外国人を目の前に、私は、少し寒い思いをした。少し躊躇ったが、思い切って発言する事にした。
"do you know this word iki"
(あなたがたは粋ってえ言葉をご存知ですか?)
皆は、不思議そうな顔でこっちを見ている。
"what you saing、Mr.Tsunoda?"
(何言ってんだい、角田さん。)
"it's a borderline."
(線引きのことです。)
"borderline is there in the world.what's wrong?"
(ボーダーラインなら、世界中どこにだってにある。それがどうした?)
"we have borderline in our Japanese mind.iki is the rule not entering over it"
(我々、日本人なら心に一線を持っている。それを踏み越えない約束。それが、粋です。)
"if you said iki、and show us it."
(あなたが、そこまで言うなら粋とやらを見せてくれよ。)
私は、ネクタイを外して、ジャケットも脱いだ。ポケットから扇子を取り出すと、立て弁で喋り出した。
「おいとこから品川まで八つぁん、かけたかと思うと、一目散に駆け抜けた!犬畜生め鳴いてやがんな、コノヤロ!吠えるんじゃねえ。いや~寒い寒い。どこぞで火事があったんだい。風呂屋の亭主が怒ってらぁ。品川から東京までこんなに遠いと思わなかったよ。ようやく辿り着いたかと思うと、八つぁん、とうとうくたびれた。あぁ、アタシもくたびれた。」
(your place to shinagawa hattsan was running.over the dog.hattsan was tired.I"m tired.)
"what's?"
(何だコレは?)
「だってぇ、寒いんだもん。」
(shllap.it's cool.)