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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第35回バトル 作品

参加作品一覧

(2012年 6月)
文字数
1
ごんぱち
1000
2
深神椥
1283
3
石川順一
754
4
小笠原寿夫
1000

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Entry1
タイムトラベラー
ごんぱち

「開けろ、出せ! 誤解だ! オレたちはだたの未来人だ!」
 石造りの高い壁を、四谷京作は叩いて怒鳴る。
「……騒ぐなよ、四谷」
 傍らで、蒲田雅弘が座り込む。
「時空波動のチャージが出来れば帰れるんだ」
「そのチャージが進まねえんだろうが。半端なショートジャンプじゃ、中世ヨーロッパから抜け出せやしないぞ」
 四谷は牢の壁をさする。壁には扉は一切なく足がかりになるような凹凸もない。
「ううむ、何とか良い手を……手を……そうだ!」
「何か思い付いたのか、四谷?」
「オレたちが魔法を使うって脅すのはどうだ!」
「お前魔法とか使えたのか?」
「発展した科学は、それを理解出来ぬ者にとって魔法と見分けが付かない。ちょっとした事で良いのさ! 例えば!」
 四谷は真っ直ぐ天井を指さす。
「日食の予言!」
「おお、なるほど!」
 蒲田はタイムマシンのコントロールパネルを空間投影し、操作する。
「日食……よしツイてる! かなり近い時期に起きるぞ!」

 四谷と蒲田は王の前に引き出される。
 王は金の使われていない王冠と衣装を身に着け、飾り気のない玉座に座っている。中世の一領主に過ぎない事が分かる質素さだった。
「お前達を開放せねば、魔法で国を滅ぼすだと?」
「はい」
「我らの魔法で、太陽を消してしまいます」
 四谷と蒲田は跪きながら答える。
「ハハハ! やれるものならやってみるが良い!」
「では、ふんぬ、のおおおお!」
「うんばあああああ!」
 四谷と蒲田は奇妙な踊りをしつつ言葉にならない声を上げる。
「さあ! 外に出てごらんなさい!」
「ふん、どうだか」
 王はやや不安げな顔をしつつ、お付きの者を従え中庭に出る。中庭には太陽が差し込んでいる。
 王は眩しげに太陽を見上げる。
「ひぃっぶしっ! ぐずっ……ふん、いつもと変わらぬ太陽ではないか」
「お待ち下さい!」
「さあ、これを!」
 蒲田が王にサングラスを差し出す。
「太陽をご覧なさい!」
 王はサングラスをかけ、太陽を見上げる。
「うぉおおお! 何と、何という事だ!」
「どうです」
「太陽が欠けているのがよく分かるでしょう」
「なんだこれは、ガラスのようでガラスほど透き通っておらず、影ばかりが見える! むむむ、不思議だ、何とも不思議だ!」
「いや、太陽がさ」
「日食してるでしょ、ね?」
「このような不思議な物の製法を知る者を国外に出してはならぬ、最深の牢に閉じ込めるのだ!」
「だから太陽!」
「くそぅ、所詮は暗黒時代か!」
タイムトラベラー ごんぱち

Entry2
それから
深神椥

「あの、すいません」
友人との待ち合わせ場所へ向かう途中、信号待ちをしていると、そう声を掛けられた。
振り向くと、見たことのない大柄の男性だった。
「はい?」私はそう答えた。
「あの、僕、同じ大学の者なんですけど……片瀬さんですよね?」
少し挙動不審気味にその男性が言った。
「あっはい、そうですけど。あの、お名前は?」
「あっ申し遅れました。僕、中田サトシっていいます」
中田など聞いたことがない。
まぁ、大学なんて何百人も学生がいるわけだから当然の事だが。
 そうしている間に信号が青になり、私と中田サトシは歩きながら話した。
「あの、僕、前から片瀬さんと色々お話してみたいなーと思ってて、それであの、メールアドレス教えてもらえませんか?」
「あーあの、私急いでるんで、すいません」
「あっすいません。でも、お願いします」
中田サトシに何度も頭を下げられ困惑したが、とにかく急いでいたので諦めて教えることにした。
初対面の男性に教えていいものか迷ったが。
 私達はアドレスを交換した。
「はい、どうもありがとうございました。忙しいのにすいません」
そう言って中田サトシは頭を下げ、去って行った。

何の疑いもなく教えてしまったが、よかったのだろうか。
何だかドッと疲れたが、急いで待ち合わせ場所へ向かった。


 待ち合わせ場所へ着くと、同じ大学の友人の由香が待ちくたびれた顔をして立っていた。
「ごめんね。ちょっと色々あって」
「えー何かあったの?」
由香が興味津々で聞いてきたので、私は何とか濁して、近くのカフェに入ろうと言った。
 私達は窓側の四人掛けの席に座った。
平日の昼間は人が少ない。
私はイチゴパフェを注文し、由香はアイスカフェオレを注文した。
「で、何があったの?」由香が改まって聞いた。
「えっあっえーっと……」
私は先程の一件を話した。

「えぇ~!?」由香の声は店内に響いた。
私は口の前に指を立て、シーッと言った。
「あら~そう……。まぁ、私なら教えないかな」
「えぇ~そうなの!?」
「だってそりゃそうでしょ。初対面の男に教えないよ、普通の女は」
何だか無性に不安にかられた。
「まぁ、教えちゃったものはしょうがないよ。結末がどうなるか、見守ってるよ」
そう言って由香はストローに口をつけた。
 恋愛経験も殆どないし、そういう時どうしていいかわからなくて。
気が付くとイチゴパフェのソフトクリームが溶けて流れ出していた。


カフェを出て、由香と別れた。
夜六時を回り、辺りは薄暗くなっていた。
いつものように電車に乗り帰路につく。
この時間帯、車内は空いている。
向かい合わせの四人掛けシートに一人座り、窓に映った自分の顔を眺めた。
先程の由香の言葉を思い出していた。
(結末がどうなるか、見守ってるよ)
 その時、カバンの中でケータイのバイブが鳴った。
見ると、中田サトシからだった。
(どうもこんばんは。中田サトシです。突然あんな風に声掛けてしまってすいません。前から片瀬さんと色々話してみたいと思っていたので。あの、ところで片瀬さんは○○は好きですか?)
突然のメールに驚いたが、何故か笑みがこぼれた。

気が付くと、返信キーに指をかけていた。
それから 深神椥

Entry3
俳句道
石川順一

風呂に居て我が手離るる季語辞典崩壊をせし吸着の棒(2012年4月20日(金))

 目吉は短歌を吟じるとしばらく目を閉じた。走馬灯のように過去が蘇る。

金曜に家を離れてコンビニでウィスキーを買いイヤホン無くす(2012年4月13日(金))

 目吉ははっきりと自分の過去が自分を刺激して居るのが分かる。もっと思い出したいと目吉は思った。

 
台形の様なる顔の私かな暁方に辞典を読めば(2012年3月下旬)
 
 目吉は日にちが分からないだけで苛立った。この短歌の日付は。この短歌は万吉先生から下77が説明的でうるさく感じるとの評言を賜った。もうちょっと鮮やかなイメージを提示できないかなあ、鮮やかなさあと言って居られた万吉先生。目吉は思い出して短歌道の険しさを思った。

ヴィデオ視聴しつつ固定のバイク漕ぐ変り行くのが視点と思う(2012年3月30日(木))
リフティングこんなに続くものならば少年だけを川原(かわら)に残し(同)
フリスビー何度でも取る犬と居る女訓練士は草地踏む(同)

 目吉は過去の記憶の面妖さに驚いた。詠めば詠むほど過去は死んで行くようにも生きていくようにも思えた。自分次第であるにも関わらず自分で決定する事は100パーセント不可能のようにも思えた。

決定を不可能にするうかれ猫
感動はもう一回の日向ぼこ
おかしさは葡萄を食べて眠る事
手を出せば夏の太陽齧れます

 目吉は俳句も嗜んだが俳句に対しては目吉は若干窮屈さを感じて居た。「季語」と言うものが重々しく思えた。目吉はめげずに詠もうとした。

目高飼ふ壺は植物併用で
苦しさを揚羽蝶見て紛らせる

 目吉には短歌の師匠は居たが俳句の師匠は居なかった。何かおどろおどろしいものを感じて師匠に付く気がしなかった。このままではいけない、俳句をうまくするにはどうしたらいいか目吉は悩んだ。

パソコンの画面の上の黒枠に蚊
俳句道 石川順一

Entry4
お酒の件でぽつりとつぶやく
小笠原寿夫

スナックを見上げる形に私の住まいは建っている。恐らくは、会社帰りのサラリーマンが、立ち寄る場所なのであろう。接客業が、如何に大変なものかは、知る由も無い。月夜と共に、聞き慣れないカラオケの音楽が、耳に吸い込まれていく。私は、ベランダで煙草を吸いながら、ただ、なんとなくその歌声に酔いしれる。
高い金を払って、酒を飲ませてもらうという発想は、私にはない。
みんな、寂しいんだ。
何故か、そう思ってしまうのは、私の主観であろうか。酒の味を覚えたのは、まだ、中学生くらいの頃だった。
神戸の板宿商店街で、神輿を担ぐ行事があり、その打ち上げで、確か友人と二人で苦いビールを、舌に覚えさせられた。
それが、酒との出会いである。
酒といえば、父が悪い酒を飲んで帰ってきたあと、家庭が崩壊するのではないかと、のちになって思う程、暴れ倒した記憶が、鮮明なだけに、あまり、いい思い出がない。「お酒は、二十歳になってから」というキャッチフレーズがあるくらいだから、大人の飲み物だと思っていた。
私は、上戸でも下戸でもない。
楽しい酒の上では、つい気が大きくなり、失言をしてしまうのも、稀なことでは、ないのだが。
酒の世界は、奥が深い。
原始時代の猟が、盛んだった頃から、人は、酒というものを、知っていたらしい。米を発酵させて、麹を入れ、よく撹拌させてやると日本酒が出来上がる。
その工程を、如何にして人が手にしたかは、疑問だが、何せ、生き物が生き物を捕らえるという残酷な世界に於いて、酒は、必要不可欠だったのだろう。
ほろ酔いも   飲んでしまえば   ただの酒
ただの酒があるわけがないのだが、一応、そういうことにしておこう。
酒に聞き   酒に溺れて   あの世行き
飲みすぎると、命に関わる。娑婆にいる内が華であるが、人は、命に限りがある事に気づいた瞬間、幻想の世界を作り出した。
当たり前の事ながら、感服させられる。酒は、糖分。それだけに、大人が、酒に一喜一憂するのも、無理はない。
酒の席   我を忘れて  二日酔い
酒の席で、我を忘れては、元も子もないが、美味いものと、酒は、極上の喜びを分け与えてくれる。
忘れない様に書いておきますね。
車の運転には、酒気帯びは禁物!   人に迷惑がかかる上に、罰金及び懲役が、課せられますからね!
最後に一首
酒豪でも   酔ってしまえば   酔っ払い
宵(酔い)の口には   知らず存ぜず
夜中に考えたフリーター川柳でした。お後がよろしい様で。