Entry1
タイムトラベラー
ごんぱち
「開けろ、出せ! 誤解だ! オレたちはだたの未来人だ!」
石造りの高い壁を、四谷京作は叩いて怒鳴る。
「……騒ぐなよ、四谷」
傍らで、蒲田雅弘が座り込む。
「時空波動のチャージが出来れば帰れるんだ」
「そのチャージが進まねえんだろうが。半端なショートジャンプじゃ、中世ヨーロッパから抜け出せやしないぞ」
四谷は牢の壁をさする。壁には扉は一切なく足がかりになるような凹凸もない。
「ううむ、何とか良い手を……手を……そうだ!」
「何か思い付いたのか、四谷?」
「オレたちが魔法を使うって脅すのはどうだ!」
「お前魔法とか使えたのか?」
「発展した科学は、それを理解出来ぬ者にとって魔法と見分けが付かない。ちょっとした事で良いのさ! 例えば!」
四谷は真っ直ぐ天井を指さす。
「日食の予言!」
「おお、なるほど!」
蒲田はタイムマシンのコントロールパネルを空間投影し、操作する。
「日食……よしツイてる! かなり近い時期に起きるぞ!」
四谷と蒲田は王の前に引き出される。
王は金の使われていない王冠と衣装を身に着け、飾り気のない玉座に座っている。中世の一領主に過ぎない事が分かる質素さだった。
「お前達を開放せねば、魔法で国を滅ぼすだと?」
「はい」
「我らの魔法で、太陽を消してしまいます」
四谷と蒲田は跪きながら答える。
「ハハハ! やれるものならやってみるが良い!」
「では、ふんぬ、のおおおお!」
「うんばあああああ!」
四谷と蒲田は奇妙な踊りをしつつ言葉にならない声を上げる。
「さあ! 外に出てごらんなさい!」
「ふん、どうだか」
王はやや不安げな顔をしつつ、お付きの者を従え中庭に出る。中庭には太陽が差し込んでいる。
王は眩しげに太陽を見上げる。
「ひぃっぶしっ! ぐずっ……ふん、いつもと変わらぬ太陽ではないか」
「お待ち下さい!」
「さあ、これを!」
蒲田が王にサングラスを差し出す。
「太陽をご覧なさい!」
王はサングラスをかけ、太陽を見上げる。
「うぉおおお! 何と、何という事だ!」
「どうです」
「太陽が欠けているのがよく分かるでしょう」
「なんだこれは、ガラスのようでガラスほど透き通っておらず、影ばかりが見える! むむむ、不思議だ、何とも不思議だ!」
「いや、太陽がさ」
「日食してるでしょ、ね?」
「このような不思議な物の製法を知る者を国外に出してはならぬ、最深の牢に閉じ込めるのだ!」
「だから太陽!」
「くそぅ、所詮は暗黒時代か!」