Entry1
自殺撲滅キャンペーン
小笠原寿夫
「あぁ、消えちまいたいなぁ。」
その男は、部屋で一人、そう呟きました。その時、一筋の光が、カーテンの切れ間から、差し込んだかと思うと、女神さまが舞い降りられました。
「安心してください。私は、あなたの味方です。」
女神さまは、お告げを述べられました。
「あなたの命は、あなただけのものじゃない。」
「そんな事、言ったって、生きてても、いい事ねぇし、このまま、一層の事……。」
「マァマァ、お待ちなさい。危ない!と思ったら、すぐここへ電話しなさい。」
女神さまは、その男に、一枚の紙切れを、差し伸べられました。
いのちの電話06-◯◯◯◯-◯◯◯◯
「よろしいですか?どんな事があっても、負けない信心が大切なのですよ。」
「だけどなぁ、会社だって、経営破綻ギリギリだし、僕だって、いつリストラに遭ってもおかしくないのに、人生なんて、投げ捨てちまいたいよ。」
その時、もう一筋、光が差し込みました。
「甘いで。」
ガネーシャでした。
「お前が思てる以上に、人生は甘ない。人生を見くびるな。お前が死んでも誰も得せーへんねん。」
「え?何ですか、コレ。どーゆうことですか?僕のアパートに、神様が二人。しかも、ギリシャとインドから。」
その時、さらに一筋の光が差し込みました。
「汝、右の頬を張られれば、即、左の頬を差し出し給え。」
キリストでした。その時、光が、これでもかと言わんばかりに差し込みました。
釈尊でした。
「あなたの心の中にも、仏は存在するのですよ。」
「え?え?何ですか?神様や仏様が。しかも、こんなにも沢山。」
ワンルームのアパートに、我先にと、神仏たちが、押し寄せました。
「商売繁盛で、家、家持って来い!」
「山の神は、全てを持っているのだぞ。」
「天を仰ぐ事が、何よりの信心だと思いなさい。」
ここまで来ると、男は、もう自殺なんて、関係がなくなっていました。神仏たちは、鍋を囲み、ワンルームのアパートでどんちゃん騒ぎを始め出されました。
ここで、ガネーシャが、声を張り上げられました。
「縁も丈縄となって参りましたが、ここら辺で、幹事に締めの挨拶をお願い致します!」
「締めて!早く締めて!」
弁天さまから、その男に、いきなり、マイクが手渡されました。
「えっ?あっ、あ、あの、皆様、お疲れ様でした。二次会は、カラオケとなっておりますので、足元、靴の履き間違い、体調管理には、お気をつけください。」
男は、次の日から、心を改め、仕事に臨んだといいます。