Entry1
彼女の魅力
iiyama
僕が、彼女「飯島」さんを語るときに、まず言わなくてはいけないことは、僕と彼女の関係についてだ。僕と飯島さんは恋仲でも友人でもない、かといって薄い仲でもなく、知り合わない人でもない。僕にとって彼女は人でなく、彼女にとって人とはとるに足らないものであるだけだ。そんな飯島さんと過ごしたあのクソ暑い夏休みは終わりを告げ、思い返すと薄っぺらな幻のようなあの事件も全ては永劫の彼方となった現在、僕達の間にできた関係はよりビジネスライクなそれであり、上司と部下の関係というのが一番正しい。
「社長と社員ではないところが君らしい言い回しだね。君は僕に飼われているわけでも雇われているわけでもない、下について働いているだけだものね」
と飯島さんはこの関係性を示す文言に肯定的だ。皇帝的な彼女にしては珍しいことだけど、王様と下僕という関係性を口に出さない僕をもっとほめてくれてもいいように思う。まあただ、僕も嫌々下についているわけでもないので、やはりこの言い回しは的を外している。飯島さんは強いらない。
っというわけで、我が上司、飯島さんは人ではなく、独善的で、口が悪く、賢く、逞しく、けたたましく、そして正しく、美しい。彼女の魅力を説明するのは難しく、彼女を魅力だけで説明するのは愚かしい。素敵で不敵で完全無敵が彼女だ。だから僕はいつも、彼女の話をする際は僕のことから語ることにしている。僕が彼女と一緒にいる理由。
さて、なぜ僕が彼女の元でコマネズミの如くあくせく活動しているかというと、もちろん配属をもって彼女の下にいるわけではない。今も鮮明に思い出す、今年の4月のことだ。彼女の敵として僕は出会った、無敵の前に無謀にも敵として立ちはだかった、思い返すほど愚かな行為だがあの時の僕は必死だった。だから彼女に的として射られた、必至なことだ。彼女のものを盗ろうとしたネズミを彼女は軽く払っただけだがそれでもネズミは無残に殺された。気付いた時には彼女は全てを統べていた。負けた。敗北をもって僕は彼女の下についたのだ。
「いつまでもぐちぐちというなよ。相手が悪かったのさ。失敗したわけでもなく、手を抜いたわけでもないだろう。もっというと君が悪いわけじゃない」
そんなことを飯島さんは平気で言ってのける。上司として、部下のミスでも庇うように。
まったく惚れてしまう。