Entry1
スラムサンデ―
iiyama
瞼を開いている状態と瞼を瞑っている状態,どちらが人間としての基準状態なのだろうか?私たちは,瞼を開き眼球を外気に触れさせて波長という光の情報を手に入れる.見て観て視る事が出来るのは瞼を開いているその時だ.しかし,その光の情報を遮断したことでこそ,見得て観得て視得る事が多いのもまた経験的に得られている事実だろう.感覚を研ぎ澄ます際に目を瞑ることは,私たちの普段の視覚情報への依存と,その情報の雑味の多さを物語っている.それでも人は視覚の情報に頼り,見た目という評価や分別から世界の規律を作り出していく.それ以外にある見えないものの価値や本質から文字通り目を背けて,視覚が死角を生み出していく.悲しいと私は想う.悲しんでいるようには他の誰からも見えないようにそう想う…
その街には肌の黒い人と黄色い人と鼻が高くて大きくそして肌は白い人が住んでいるという.勿論,黒い人にも黄色い人にも鼻の高くて大きい人がいるそうだが,白い人はうんと鼻が高く大きいそうだ.ワタシは黄色も白も見たことが無いが,黒はいつも見えているので「黒い人」というのには親近感が湧いている.しかし,ワタシにいつも話しかけてくる人々曰く,ワタシは白い人なのだそうだ.けれども鼻は大きくもなく高くもないと言われてしまった.だからワタシはこのお城にいるのだそうだけれど,一体何が「だから」なのかはワタシには全く分からないでいる.ある日のそれは「夜」というお城の外が黒いらしい時間だった.ワタシの部屋に知らない方が来たのだ.その方はノックをされず,寝ていると思っているワタシに気を使ったのか,音を立てないようにワタシの部屋に入ってきて下さった.
「どちら様でしょうか?」
そうワタシが言うと,その方は
「…私は給仕の者にございます」
と返答した.新しい給仕の方なのかも知れない.ワタシははじめましてと挨拶を交わし,いつも給仕の方にして頂くように彼にも話相手を頼むことにした.とても素敵な夜という時間だ.ワタシはきまって言う質問を彼に投げかけた.
「街というものはどういうものなのでしょうか?」
この街というものは,御城に見下される為にあるもので,
「見下され見放され見透かされた者達が集められた場所なのです…長くはない場所.そう見据えています」
と彼は言う.彼の声に抑揚は無い…
「貴方はとても悲しいのですね?」
返答は無い.彼はもう部屋から出て行ったようだった.