Entry1
ライン
サヌキマオ
川を横切る人ばかりであるので、ここは三途の川であることが知れた。お陰様でこの莫迦澤も無事死亡したようである。
しかしなんであるな、本当にこの世とあの世を区切るという役目しか無いのであろうか。ぞろぞろと川を渡るだけの人々である。川というのだから上流があって下流があって、下流があるということは、大海に続いているんじゃあないのか。非常に興味が湧いたのである。不治の病と云われて半年、もはや楽しみであった。ようやくおっ死んだが、やはり痛いのは勘弁であった。でも痛かった。病床、もンのすごく痛かった。
ふと動物パンのことが頭に浮かんだ。動物パンは最期まで苦手である。亀の形のクリームパンなんて、腕から食べても尻尾から食べても惨めである。それで、やむを得ない時は頭からかじりつくのである。せめて苦しめずに殺してやりたかった。
川原には、石と石の隙間から草がはみ出している。果たしてこいつらは生きているのだろうか。それとも死んでいるのだろうか。
こうやって観察ばかりしているが、想像力の貧困にうんざりしているのである。しょうがない話を進める。
「こらこらそこで」襤褸をまとった男が近づいてくる。地獄で逢ったチワワのような顔をしている。「そんなところで立ち止まってはならぬのだ」「ね、ちょっとお伺いしますがね、この川というのは」「ああ、どうせこの川の行先がどこだとか聞きたいのだろう、そういうことを聞くやつは一週間に一遍くらいやってくるのだ。聞いたってしょうがないではないか、どうせ直ぐあの世に往くのだ」「だったら教えてくれたっていいじゃないですか、ほら、冥土の土産とかで」「うまいことを云ったつもりかもしれないが、そういうメイドモミアゲとかいうやつも一ヶ月に一人位いるからな」「じゃあ、動物パンはどうです」男はにっと歯を剥いたが表情が変わらない。ただ「動物パン、それはなかったな」と呟いた。
「そういうものは、食べぬのだ」「だとしたら、動物パンでないものは食べるんですね、何を普段食べているんです」「だからそんなことを聞いてどうしようというのだ」「単純に興味が有るのです、ここ、三途の川だって私の想像以上のものはなかったし、川の行く末だって想像できないもの。あるはずがない」「そうだろうそうだろう、それが答えなのだ。想像出来得ぬものは存在し得ぬ」
いつしか川の幅はどんどん広がって、向こう岸が見えなくなっている。