Entry1
タクシー日誌(昭和元禄)
DOGMUGGY
「おや、急に霧が出てきたな?晴れてたのに雨も降ってきたし」
ワイパーを動かし始めた次郎のタクシーは藤沢に向けて国道467号線を南下している。
周りのキャベツ畑が続く田園風景が、深夜の闇にヘッドライトで浮かび上がっている。
そこに路肩で傘をさした派手な服装で厚化粧のミニスカートの娘が手を上げている。
次郎は路肩に寄って、娘のそばにハザードランプを点滅させて停車しドアを開けた。
「真っ直ぐ行って頂戴ケロヨーン」濃いアイシャドーの目をパチクリさせて娘は言った。
「駅の方で宜しいですね、締まるドアにご注意下さい」どこか変わった客だな(汗)
マニュアル通りの手順でドアを閉めて発車したら、異変が立て続けに起きたのだった。
「変だな、レディオ湘南どころかハイパワーなFMヨコハマすら入らなくなったぞ?」
「カーナビもGPS衛星電波受信エラーの表示になったし?」それに…(汗)
なんとなく畑がいつもより長く続いてる様な、雨と霧で良く見えないが家も減ってね?
ところで(汗)、「お客さん変わったTシャツ着てらっしゃいますね?」
ルームミラーには次郎が幼稚園児の時分に若い頃の叔母さんが着ていた記憶のある昭和40年代半ばの昭和元禄の頃の、サイケデリック調のファッションが映っていた。
「何さ、これタイガースの公認Tシャツじゃないのさ、運ちゃん知らないの」
「運ちゃん?」最近殆ど聞かない単語だし…
気不味い雰囲気を消そうと妙に明るく「ああ、お客さんプロ野球の阪神ファンなんですね」
「運ちゃん何言ってんのよ、今大流行のGSのタイガースよ、アタイはピーにぞっこんよ」
うむ気の毒に、この娘どうかしているみたいだな、車内事故にならない様に気を付けよう。
次郎は適当に相槌を打ってお茶を濁すと、気になっていた対向車線に目をやった。
…にしても「ベレット」「コロナ」「ブルーバード」さっきから旧車ばかりじゃないか!?
週末だから走行会か何かで湘南に来た帰りの連中なのかな、服装まで旧車に合わせてるし。
カーラジオで選局し直すと不思議なことにAM放送は正常に入って来たが、いつもとどこか様子が違う、しばらく聞いていると眠気が一気に吹き飛んだ。
「こちらはJORFラジオ関東です、午前零時の時報をお知らせします、プップップッピー」
え、ラジオ日本でしょ?間違ってるでしょ、こりゃ大間違いでしょ昔の局名言うなんて。
「ここで降りる停めて頂戴、お釣りはいらないバハハーイ」娘は料金皿に札を1枚置いた。
停車してドアを開けると娘はすぐに居なくなってしまった、というより瞬間的に消えた?
「あれー、これ昔の500円札じゃないか最低料金未満だ、やられた乗り逃げられたか」
外に出ると、いつの間に雨も霧も無くなっていて見事な満月が黄色く星空に浮かんでいた。
ふと路肩を見ると、お地蔵さんが並んでいる、その横には年季の入った古ぼけた看板が(汗)
「死亡事故多発地帯」(爆)次郎は狐に摘まれた様に立ち尽くしたのだった顔面蒼白で。
お化けだったのか?しかし紙幣は事実として存在している、局地的なタイムスリップか?
車中のカーナビは現在位置のシンボル表示に戻り、ラジオ日本からは演歌が流れていた。