Entry1
連立セイトウ
金河南
最近の政界は極端にちいさな野党が集まりすぎて、もはや政党のごった煮状態にある。
そこで、解散総選挙の前に連立を組み、与党と対抗しうる巨大勢力を構築しようと「初心の日本党」が呼びかけをはじめた。
まず賛同したのは「かがやく明日党」である。「初心の日本党」とは原発についての意見が分かれており、連立など夢かと思われていたが、まさかの成立。
次に野党の中でも最も小さな、鉄オタ議員のみで構成されている「えきした党はやぶさ」が加わった。先日の奨励会金券事件でおなじみの鈴木議員を抱えての参加。おそらく、下がった党の評判を盛り返すことができず、この連立によって選挙を有利に進めようという算段であろう。
また、オリンピック経験のある議員等、いわゆるタレント政治家のみが入ることを許される「武道芸能の党」も参加を表明予定だ。
この連立が明日にでも成立すれば、野党の中でも一大勢力となることは間違いない。
*
ケーキ屋という仕事は朝が早い。ドーナツ屋やパン屋の朝が早いのと同じだ。
志賀が、夜明け前の店舗裏にバイクを停めて店入りすると、店長はすでに、焼きあがったスポンジを丁寧に切りそろえている最中であった。
「お早うございます、店長」
「おっ、……なんだもう5時か。お早う。手は?」
「洗いました」
「じゃあ、果物切って」
「ウィっす!」
業務用のステンレス製冷蔵庫を開けるために屈むと、志賀の目線にはCDコンポ。
「店長、なんか音楽かけていいッスか?」
「ラジオにして」
「ウィっす」
「音量5な」
「えーっ……、もうちょっと上げましょうよ」
「ダメ。気が散る」
ザリザリ、ボソボソ、ラジオ特有のノイズに、聞きとれるかとれないかという声が混じる。毎日のバイク通勤中、イヤホンから大音量で音楽をたれ流している志賀にとっては雑音でしかない。
聞くのをあきらめ果物を切っていると、スポンジを切り終えた店長がクックッと笑いはじめた。
「どうしたんスか?」
「あれっ、志賀くん、聞いてない? このラジオっ……ぷっ! なんか、ずっとブドウ糖とか果糖とか液糖とかさ……、なんなの? これっハハハハ! ショ糖まで出してきて……! あはは、連呼しすぎ!」
『速報です! たった今、武道党の連立参加が決定しました! か党、えき党が既に参加を表明しておりましたが、これで初党の呼びかけにより4党の連立が――…』
「……店長、ちょっと休みましょうか」
「え、何で?」
「いいから!」