Entry1
夜桜心中
青野 岬
月が雲に隠れたのを見計らって、私は走り出す。サンダル履きの足に夜露がからみつき、素肌をしっとりと濡らす。ざわざわと、風の音。
早く、もっと早く走らなければ月がまた雲の影から姿を現して、私を照らしてしまう。誰にも見られてはいけない逢瀬へと、向かう私を。
「ごめんね……なかなか出て来られなくて。待った?」
「ううん、さっき着いたところ」
誰もいない満開の桜の樹の下で、私たちは落ち合う。再び月の光が世界を照らし、巨木のシルエットを地面に浮かび上がらせた。
「逢いたかった」
「私も」
彼が私の体をきつく抱きしめる。私も彼の背中に腕をまわし、それに応える。
桜の樹の下には死体が埋まっている、と言ったのは誰だったか。胸元をまさぐられながら考える。頭の中に浮かんだ曖昧な思念は、這い上がってくる快感に負けて、像を結ばずに消えた。
彼の唇が乳首を捉える。尖らせた舌先でさんざんいらった後、口に含んで軽く噛んだ。思わず声が洩れる。痺れるような甘い快感が広がって、お腹の奥がじくじくと疼く。
「体の向きを変えて、後ろを向いて」
私は彼に促され、両手を太い樹の幹につき腰を突き出すような格好をした。彼は私のお尻に自分の固くなったものを何度も押し付けながら、両手で乳房を強く揉んだ。ごつごつとした手が下を向いた柔らかな乳房をすくい上げる。
下着越しに彼の指先が割れ目をなぞる。その指先が何度も溝に沿って動くたびに体が魚のように跳ねた。
「あっ、駄目……そんなふうにしたら、もう……」
「もう……どうなるの?」
私の反応を楽しみながら、彼がからかうような口調で訊く。
「もう……死にたくなる」
その言葉を合図に彼の動きは突然荒々しいものになる。果物の皮を剥くようにつるりとと私の下着を剥いで、直接濡れ具合を確かめる。普段、体の奥でひっそりと眠っている「そこ」は、冷たい外気に晒されて一気に花開いた。
やがて彼のそそり立ったものが、性急に私の体を貫いた。
もはや我慢なんて、不可能だ。
私の体の一番柔らかい部分をかき回されて、立っていることさえままならない。愛と罪の狭間で獣のように叫んで、もっともっと激しく動いて。やがて訪れる絶頂のときに、私が私でなくなるまで。
「逝く……」
彼のものをくわえ込んだまま全身を硬直させて、私のたましいは月夜に放たれる。白い花びらが雪のように舞い、がくがくと震える足元は夜露に濡れたままで乾く暇もない。