Entry1
未知との遭遇
小笠原寿夫
月の綺麗な夜だった。カーテンを揺らす夜風が妙に心地良く、ベッドに横たわるには、勿体無い程、次から次へと、案が湧いた。机に向かう私の小説のイメージは、何故か、その日に限って、「好調」の二文字がよく似合っていた。月が満ちている時こそ、作家は本領を発揮するものだと、思っている。
その時だった。
月明かりとスタンドライトに照らされて、見たこともないようなものを見た。
龍のような形状で、つるつると光る生命体と目が合った。
“この子は、優しい。”
遠巻きに、そう直感した。彼は、無駄なことを、口にしない。だが、何故か惹きつけられる存在だった。
“ありがとう。”
これが、地球外生命体との最初の出会いだった。
酔狂なことをいうようだが、別れの時が来ることも予感していた。
私が、小説家になっていなければ、それは起こり得ないことかもしれなかった。応接間で原稿用紙に、走り書きをしている最中に、窓の外を見ると、ぴかぴかと、光るものが、此方に近づいてくる。
“どちらから来られているんですか?”
そう聞かれた。
“神戸の山奥です。”
私は、そう答えた。
“お寿司屋さんとかには、よく一人で行かれるんですか?”
質問の意図は、さておき、
“お父さんとなら入れます。”
と、答えた。
心の中での問答が続くなか、私は、そこが応接間であることを忘れていた。
お母さんが、ドアをノックする音がした。何故か、私は、此処に地球外生命体がいることに、違和感を感じていなかった。お母さんも、その様子だった。
“アラ、来てたの?”
“いつもお世話になっています。”
そんな問答が続いた。
“今日、お母さんは?”
“元気です。”
私は、彼のお母さんの顔を知らなかった。話を聞いていると、彼のお母さんは、別嬪らしかった。古い友人にでも会った様な言い草だが、彼と私は、初対面だった。何より彼は、地球上の生命体ではなかった。
「ちょっと席外します。」
はっきりと声に出し、私は、書斎に戻り、原稿用紙と向き合った。
“いや、やはりおかしい。”
少しずつ何かが、擦れていた。
“これを起動修正しないことには、何も始まらない。”
そう感じた。
“ありがとうございました。失礼します。”
後ろの方から、そう心の声が、聞こえたので、振り向くと、そこには、誰もおらず、窓の外を見ると、未確認飛行物体が飛んでいた。
私は、こうあるべきだと、その時に初めて頷いた。
“さようなら。”
おかしいと感じ、全てを原稿用紙に移すことにした。