Entry1
元旦風景
サヌキマオ
元旦、遥か山の端より初日の出です。
「うわぁ、しわっしわやん! しわっしわやんけ!」
人が勝手に決めた境界とはいえ、大晦日に沈むおひさまはきっといつもの黄昏だったはずです、なのに誰も覚えていない。十二月三十一日に沈む夕日のことなんぞ誰も覚えていない。もしかすると昨日からどこかが悪かったのかもしれない。目に見えるものが真実であるのならば、今眼の前に映る太陽はしわっしわでありました。
「おいしそう」
「おいしそうやね」
「見とるとつばが湧いてきよるのう」
「白飯が欲しくなりますねぇぃ」
それ以外の言説というのはいくらでもありましたが、大体は「正月から縁起でもない」「日本オワタ」「他の国はどうなっているんだ」の三つに収束されたので割愛します。全体の九十八パーセントを割愛して、残りの二パーセントを百とした時のさらに二パーセント。
「もうおせちとかいいから白飯炊こうぜ白飯」
おせちは昨年十月末、中野駅の北口を歩いていたら、回転寿司屋さんが早々と予約を受け付けていたので酔狂にも頼んでおいたやつです。紅白を観ていたら知らない電話番号から山のように電話がかかってきて思い出しました。電車を乗り継いで取りに行きました。そういえば紅白面白かったですね。会場に犬が入ってきて。小林幸子が艦娘化してて。
特製おせちはいくつかにぎり寿司の付いた、値段の割にはそこそこ豪華なものでしたが、何も温かいものがついていないのがいただけない。普通付けるだろう、カップの味噌汁とかお吸い物とか。寿司はおいしいけれど、三つ四つと食べ進めていくうちに、胃の底から冷えてくる。
「何かないのかい」
「出来ますものは白湯かお湯か、ホットウォーターとなっておりまして」
「なんで緑茶さえないんだよ。ここは日本か」
「お茶っ葉を洗うのが面倒だったのでひと夏放っておいたら、急須ごと腐っちゃったんだ」
「しょうがねえなぁ」
こたつから出るのも面倒なので白湯で我慢していると、窓から差し込む陽の光がゆらゆらしています。
「ずいぶん揺れるね」
「しわっしわだからね」
テレビでは元旦そっちのけで太陽のことばかり。そんなもの観なくてもわかっています。家の前をバイクが通り過ぎていった気がするので玄関に出ると、郵便局と眼鏡屋、それに「今年は歳男ですね! 三男が生まれました」という高校時代の友人からの年賀状が着ておりました。
碌でもないことを思い出させてくれたもんです。