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腐れ縁
小笠原寿夫
「あいつと漫才がしたい。」
常にそう思っていた。漫才というものが、どういうものなのか、まだわかっていない時分のことである。笑いに情熱を注ぐのではなく、情熱を笑いに変える。その情熱は、常に持っていた。行き場のない壁にぶち当たった時、人は、笑いに逃げたがる。
暴力を回避する為に、笑いが生まれたという説もある。何より、笑いは金を生む。そして、人は、その物に賭け続ける。
「呼吸レベルで屁をこけ。」
感覚的にそう思っていた。技術云々よりも、屁をこくことが、笑いに繋がる。頭で笑いを取る芸人さんと体で笑いを取る芸人さんがいるが、どちらも基本は、屁である。屁が臭ければ臭いほど、笑いの質は高い。
笑いの本質は、そこである。
人間が、一本の管であるある以上、それは、紛れもない事実である。
美人もインテリも金持ちも教祖も、屁をこく。
へたれという言葉が、関西にはある。一般的には、臆病者のように使われがちだが、実際は違う。専門的には、「スターは屁。」という概念がある。だから、へたれというのは、スターを輩出する者の事を指す。
私が、10代20代の頃に、目指していたのは、そういう者のことだった。それでも私は、そうありたいと願う。
「いやね、最近思うんですよ。仕事って何やろうなぁって。」
「えらい深いところから入りましたね。」
「で、答え出ました。」
「聞かせてくださいよ。」
「例えば、誰か一人の命と引き換えに世界を救えるとして、あなたならどうしますか?」
「マァ、助けますね。」
「僕、助けないんですよ。仮に生きたいと願うのならば、世界にたった一人、孤独と戦う使命を担う方が、大変じゃないですか?」
「マァ、そうやけども。」
「で、人間という生命体のバトンを最後に受け取りたいんです。」
「で、そのバトンは、誰に渡すの?」
「新しい生命体ですよ。」
「どえらい角度から、攻めてきたな。何やねん、新しい生命体って。」
「この地球上を恐竜が占めてた時代もあったわけでしょ?」
「マァマァね。」
「だけど、恐竜は絶滅したんですよ。」
「マァ、わかりますけど。」
「そのバトンを、新しい生命体、我々に渡したわけでしょ?」
「そこまで、知らんけどもやな。」
「そのバトンを渡す役割をしたいんですよ。」
「いや、バトンのサイズ全然合わへんけどね。」
「それが、結婚指輪ぐらいのサイズやったら、素敵やと思われへん?」
「なるほどね。うまくまとまり過ぎて笑われへんけどな。」