Entry1
少子化対策
ごんぱち
「……しかし先生」
「なるほど、ご立派な事だ。我が国でも有数の大企業ともなると、政府の依頼も耳を貸す必要はない、そういう事かね」
「い、いえ、そのようなつもりはありませんが」
「が、なんだね」
「全商品への対応というのは……やはり、すぐには」
「事態は一刻を争うのだよ。いや、既に遅すぎる程に遅いのだ。老人が多数派となったこの国は、将来を見据えた政策が立てられない。生産力の失われた、消費するだけの奴らの意向に流される政治は、自らの足を喰い散らかす頭足類と変わらない。その先にあるのは、国力をすっかり失い屍同然となった抜け殻だ」
「そうかも知れませんが」
「その為に! 少なくとも、その流れを僅かでも先延べにする為には、少子化は、せめて少子化は食い止めなければならない。老人は先に死ぬ。待てば死ぬ。その後に子供が残っていれば、国は再建させられるのだ」
「それは分かります。ですが、我らの商品だけで状況が改善するとはとても」
「そんな事は分かっている。だが影響の一つではあるのだよ。この対策が君のところだけだとでも思っているのかね。あらゆる物が、少しづつ改められていく、それが力になる。一個の決定的な手段で動く程、国家は軽くない」
「お話は分かりました、しかし、余力が」
「――君のところの商品、消費期限は大丈夫かね」
「え? あ、はい、もちろん」
「あれは曖昧なものだからね、気をつけたまえよ。結局のところ、国民が気にするのは、どの数字が印字されているか、だ。いや、それすらも気にせずに、単に『正しくない数字が付いていた』という情報一つで、不買に繋がるのでは、なかったかな?」
「先生まさか!?」
「これから、新聞社と会食があるが、君も来るかい」
「……わ、分かりました。ですが、全ての商品は難しいです。ただ、まず最主力の商品で対応します。これだけでも、十分業界へのインパクトはあると思います」
「それでこそだ。きっと分かってくれると思っていたよ」
「うぃーっす四谷、プリン買って来たぞ」
「おお、さんきゅ、蒲田」
「ほい」
「おう。お皿お皿」
「四谷、皿使うのか? この前は、後からカラメルが出る事がどうの言ってなかったっけ?」
「一つは皿に出して、もう一つはカップで食うのさ」
「ふうん。俺もそうするかな」
「それがいいよ!」
「……あれ? 前って、なんでそうしてなかったんだっけ?」
「なんでだっけ?」
「ま、いっか。ほらプッチン」
「おうよプッチン」