Entry1
光と陰
深神椥
今週末、友人のヒロカズが温泉でも行こうと誘ってきたので、久々に羽を伸ばすことにした。
土曜の朝、ヒロカズが車で家まで迎えに来てくれた。
僕が車の後部座席に乗り込むと、助手席のヒロカズが「おはようナオヤ」と顔を覗かせた。
「おはよう。あれ?」
僕は運転席を見た。
「おはよう。久しぶり、ナオヤ」
「ユウイチ?」
「六年ぶり、かな」
僕達三人は高校まで一緒だったが、ユウイチだけ別の大学に進学した。
「よくわかったな、オレのこと」
「わかるよ。目元にホクロあるし」
「アハハ、そっか」
「二人とも話は後でいーから」
「あぁ、じゃ行くか」
目的地は以前三人で訪れたことのある温泉宿で、車では三時間程かかる。
―どれくらい走ったか、ふと見た窓の外。
森の中、隠れるようにして建っている白いお城のような建物。
ノイシュバンシュタイン城のミニチュアのような。
「ヒロカズ、あんな建物あったっけ」
「どれ?」
「あれ、森ん中」
僕は指を差したが、見えなくなってしまった。
「あったんじゃない?前来たの何年も前だし」
あったかな、あんな目立つ建物。あったなら憶えてそうだけど。
それから昼過ぎには宿に到着した。
僕達はゆっくり温泉に浸かり、食事も満喫した。
「やっぱいーな、温泉て」
僕は布団の上で伸びをして言った。
「よかったな」
窓の傍に立ち、湖を眺めながらユウイチが言った。
「誘ってくれてありがと」
ユウイチがフッと笑ったのが聞こえた。
「……ユウイチって彼女いんの?」
「何だよ急に」
「いや、昔からあんまそういう話聞かないからさ」
「……いないよ」
「へぇーいないんだ」
「……お前は?」
ユウイチがこちらに体を向け、そう言ったその時、部屋の入口でバタバタと音がし、ヒロカズが入って来た。
「ただいまー。飲み物とおやつ買って来た。パーッとやろ!」
そう言ったヒロカズは浴衣がはだけていた。
僕とユウイチは顔を見合わせ、クスクス笑った。
「何笑ってんの?さぁパーッと!」
僕達は学生時代に戻ったようにはしゃいだ。
翌日、僕は昨日見た「お城」をもう一度確認しようと思ったが、昨日見たと思われる場所のどこにも見当たらない。おかしい、昨日の今日でなくなるはずはー。
その時、「ナオヤ」と呼ぶ声がして顔を上げると、ユウイチがミラー越しに「また来ような」と言った。
ヒロカズもこちらを向いて笑っていた。
僕は「あぁ」と答えた。
その時は、またあの「お城」も現れてくれるかな。
僕は、そう強く願った。