Entry1
裸のアレ(附・非常に安全な熊の捕り方)
サヌキマオ
王様は、すると私は莫迦なのだろうか、とお答えになった。
昼食には控室でライ麦のパンとスープが出た。おそらくは長いこと保存してあった干し肉を削ったものと、なんらかの葉っぱのスープだ。見知らぬ仕立て屋への対応としてはまあまあと言える。昼休みが終わると兵士に案内される。サンタ・バルボラ城、謁見の間である。
王様のけわしい眼差しに少しも冗談の色が見えないのを確認して、私は「お見えになりませんか」と相槌を打った。
「大臣」
王の呼びかけの後ずいぶんと間があって、はぁ、と魂の抜けたような声があった。大臣である。よくあるようなカイゼル髭の細面よりも、やけに長い首と、首に刻まれた皺のほうが印象に残る。大臣、お前には見えるか、その、この仕立て屋が拵えてきたという服が。
「おそれながら――」
やはり先程から大臣は小刻みに震えていたのだ。気のせいか輪郭がぼやけているような気がしたが、やはり返事に困って震えていたのだった。
――ところで非常に安全な熊の捕り方を知っているだろうか。ドアほどの大きな木の板を一枚用意し、熊の手が入るくらいの穴を開けておく。これを森や丘にある、ちょうど木の板にぴったりな大きさの洞穴を見つけておいて人が中に入り、入り口は木の板でドア代わりにピッタリ閉めてしまう。
やがて熊がやってくる。熊は忽然と現れた木の板と開いた大きさの穴に興味を示し、利き腕を突っ込んでくる――そうすればしめたものだ。あとは突っ込まれた腕を必死で抱えて家路を急げばいい。もっとも、場合によっては熊の家に到着することもあったりするとか……
――いかん、意識が飛んでいた。
「おそれながら」私はやおら口を開いた。「国王陛下に置かれましても百聞は一見に、いや百見は一触に如かずでございます。触っていただけさえすれば『存在する』というのがお分かりいただけるかと」
王ははっとした顔をした。玉座からすっくと立ち上がると、ややよろめきながらも「服」の掛けてある台に向かい、そっと手を差し伸ばす。ふっと息が漏れた。
「確かに、あるな。不思議なものである」
確かに服はある。当たり前だ。ちゃんと作ったんだもの。
「これは認めねばならんようだ」
王様は口角を上げて私に向き直った。
「つまり、わしは莫迦だったのだな」
よくよく考えてみれば、裸に見える服なんぞ売れるわけないものなぁ。
城壁の上から逆さに吊るされながら、私は大きくため息を付いた。