氷「お父様、今朝は寒くって、手洗水に氷が張りましたよ」
「その氷はどうしました」
「ししゃくで叩いて壊そうとしましたけれども、なかなか壊れません」
「ししゃくと云うものではありません。ひしゃくとおっしゃい」
「アラ、ひしゃくが本当ですかネ。お父様、水と氷はどっちが重いでしょう」
「氷は水の中に入れると浮きますから、氷の方が水より軽いのです」
「それで氷はいつも浮いていますネ。そのくせ水より堅くって、冷たいから重いように見えますけれども、やっぱり氷の方が軽いのですかネ」
重い物「お父様、石油なんぞは水の上に浮きますから、やっぱり水よりも軽いのですネ」
「そうですよ、石油も軽いものですし、他の油も大概水より軽いから水の上に浮きます」
「世の中で一番重い物は何でしょう」
「それはイリヂュームという鉱物で、水より二十二倍余の重さがあります。その次はプラチナで二十一倍余の重さがあります」
「プラチナというのは、お父様の時計の鎖についている銀のような白い金ですか」
「そうですよ。あれは銀のように見えても銀より二倍の重さがあります」
「お父様、その次は何でしょう」
「その次は金です。金は水よりも十九倍の重さがあります」
「お父様、鉛と銀はどっちが重いでしょう」
「鉛の方が重いものです。鉛は水の十一倍で、銀は十倍です」
「水よりも一番軽いものは何でしょう」
「硝子壜の栓にするコルクですネ。あれは水の四分の一だけの重さしかありません」
「コルクというのはコロップですネ。道理で水によく浮くと思いました」
軽い物「お父様、一番軽くって、軽くって、もうこのうえ軽いものはないというほど軽いものはなんでしょう」
「水素瓦斯と云って、風船の中などへ入れる瓦斯ですよ」
「『風船物語』の風船を飛ばせる時、その中に入れたものですネ」
「そうですよ。あれは空気よりも軽いから、上へ昇るのです。風船が高く昇るのは、空気の中に浮くのですよ」
「じゃコロップが水に浮く通りですか」
「そうですよ。しかし、空気は上へ行けば行くほど薄くなりますから、空気の薄い処まで昇ると、もうその上へは昇れません」
「鳥と風船はどっちが高く昇りましょう」
「いつか『グラント物語』の時お話したコンドルという大きな鷲は、鳥の中で一番高く昇りますけれども、風船はそれよりも高く、富士山の二倍以上も昇ります」
「そんな高い処に鳥を持って行ったら、どうするでしょうネ」
「風船に鳩を載せて行って、一番高い処から放すと、鳩は飛ぶ事が出来なくって、石のように下へ落ちるそうです」
「鳩はさぞびっくりしましょうネ」