狂女の独白
今月のゲスト:日向きむ
あなた偽という事本当に知っていますか。
真実という事本当に知っていますか。
真実の中に偽の忍び込む姿を見た事がありますか。
偽の中に交っている真実を追いかけて捕えてよく見た事がありますか……私と一緒にもぐらもちの御殿へおいで!
唐突坊となくふくろうは、昔きのこが化けたものだって野寺の和尚さんがいいました。恋が化けると何になるでしょう?
私は昨夜いいものを見た、面白いものの出来る処を見た。一つの型から出たものを二つにわけて、一つを動物の組に入れたらばはねて行った、人間はそれを蛙と呼んだ、他の一つを植物として畑に生らしたら長細くなって下った、人間はそれをきゅうりと呼んだ。もひとつの型から出たものを又二つにわけてひとつを海の生物とした、人間はこれに章魚という名をつけた、残った半分を山に置いたら人間はこれにまつたけという名をつけた。
泣くもんじゃないわお梅さん、泣くんじゃありませんよ、泣いた後でワハハと笑ったら本当に悲しいじゃありませんか。
赤坊は怖いものですよ、私たちの心の表面にまだ浮いて来ない思想まであの眼の力でひき出して来る、永劫のお爺さんお婆さんなのですよ、真夜中に、誰も知らない時に、私たちの寝がおを覗いて声を出さないで笑っているのでしょう、赤坊は怖いものですよ。
この室の灯を消して、隣の室のを明くして、私の寝つくのなど少しも気にかけないで、乳母や、お仕事をいつまでもしていて頂戴。
そよ風に吹かれるとこんな小さい心では考えきれない程の事を思い始める。
未だ見ない山の事だの、海の事だの、大河の事だの、野の事だの、運河の事だの、森や林の事だの、小川の事だの、牧場の長い囲の事だの、緑の草の事だの、羊や、馬や、牛や、または水禽の群の事だの、青い空の事だの、白い雲の事だの、船の事、旗の事、大きい都会の事、水車面白い田舎の事、人の事、神の事、はてもなく思がうつる。
是は風が行きちがいながら人に話す不思議な一言ばなしなのだろう、自分の過ぎて来た長い旅程をしらせようと思って。
思った事の出来ないという筈がない、もしも出来ないとすれば、それはまだ本当に思わないからだ、本当という字を公案にして一寸三年ばかり、さあ一緒に考えて見ましょう。
私が馳ければお月様もかける、原の千本松いそぎ足。
風が吹く、風が吹く、雑木林の高い梢を薙ぎ倒す様にして、白い裏葉に海の歌うたわせて、風が吹く、風が吹く、大浪が起って来て海底のぬるぬる草に黒髪の舞をまわせる様に、林の梢たわませて、軒の葛の絲なびかせて、風が吹く、大風が吹く、もっと吹け吹け青嵐! 木も折れよ、棚も飛ばせよ、私の袖ははたはたと音がして白い焔のようだ、私は今破壊の女神! 風にいいつける、心のままに憤れ! 汝の疲れきってしまうまで、今敵の城のとりでが炎に包まれているのを私は無言に微笑して高楼に彳んでながめている、もっと吹け、もっと吹け、もっと吹け!
自覚なんて野暮な言葉ね、水へ一度もいれない紺ガスリのきものの様な言葉ね、それでも着なけりゃなりますまいか、着てきない顔が出来るなら、誰か教えて下さいな、浅黄すきやに肌の透くあづま女の洗い髪、それと妥協は出来ますまいか、ヘマムショ入道殿に問申す。