Entry1
あるメッセージ
Bigcat
今年15になる浩二はここ数日気分がすぐれなかった。体温が常時37度台で、時に38度を超える時もあった。インフルエンザのような症状も出たので、母親が病院へ連れていって血液検査を受けさせたら白血病の疑いがあると診断された。
それから48時間、浩二は苦痛を伴う様々なテストを受けた。肺炎を起こす恐れもあって、即入院ということになった。母親は浩二のベッドの傍に簡易ベッドを置いてもらって、付きっきりの看護を始めた。
ある晩、浩二は母親に頼んだ。
「不安で仕方がないから、僕のベッドで一緒にねてくれる?」
母親は涙を流しながら、それはできないと言った。浩二のベッドは小さい上に、彼の体はチューブで縛られていたのだ。添えねは不可能だった。
医者の宣告は厳しいものだった。厳粛な調子で告げた。
「三年間の治療は覚悟してください。その間、抗がん剤の副作用で頭の毛が抜けたり、肥満体になるかもしれません」
これを知って、浩二は一層落胆した。病気をコントロールすべは十分あると言われたが、白血病が死に至る病であることはすでに自覚できる年齢だった。
入院初日から浩二はもう一つ母親に頼んでいることがあった。入院したら花をベッドの傍に置いてほしいという要求だった。これを聞いて浩二の叔母の文子が、駅前の花屋に電話して、切り花をさしたプランターを届けてもらうことにした。電話を受けた店員は若そうな女性で、声が甲高かった。文子叔母さんはこの花の手配がどれほど大切なものであるか、店員は未経験で分かっていないのだろうと思って、
「プランターは特別華やかなものにしてほしいの。白血病の甥にやるの。彼はまだ15歳なの」
「まあ!」と店員は言った。声が震えていた。
「それでは切りたての花を添えて精一杯明るいものにしますわ」
花が病院に届いた時、浩二は天井をだるそうに見上げていた体を起こして、花に添えられた封筒を開け、叔母さんからのメッセージを読んだ。もう一通メッセージがあった。それは花屋の店員からだった。
(浩二さん、叔母さんから注文をいただいた西村加奈と申します。駅前のベラフロルという名の花屋で働いています。私は七歳のとき白血病にかかりました。今は二十二歳です。きっと治りますから、お医者さんを信じて頑張ってください)
彼は入院してから大勢の医者や看護婦に励まされてきたが、このメッセージを読んで、初めて自分がこの病気に打ち勝てると確信するようになった。