≪表紙へ

1000字小説バトル

≪1000字小説バトル表紙へ

1000字小説バトルstage4
第4回バトル 作品

参加作品一覧

(2018年 4月)
文字数
1
Bigcat
1008
2
ごんぱち
1000
3
サヌキマオ
1000
4
新美南吉
1093

結果発表

投票結果の発表中です。

※投票の受付は終了しました。

  • QBOOKSでは原則的に作品に校正を加えません。明らかな誤字などが見つかりましても、そのまま掲載しています。ご了承ください。
  • 修正、公開停止依頼など

    QBOOKSインフォデスクのページよりご連絡ください。

あるメッセージ
Bigcat

 今年15になる浩二はここ数日気分がすぐれなかった。体温が常時37度台で、時に38度を超える時もあった。インフルエンザのような症状も出たので、母親が病院へ連れていって血液検査を受けさせたら白血病の疑いがあると診断された。
 それから48時間、浩二は苦痛を伴う様々なテストを受けた。肺炎を起こす恐れもあって、即入院ということになった。母親は浩二のベッドの傍に簡易ベッドを置いてもらって、付きっきりの看護を始めた。
 ある晩、浩二は母親に頼んだ。
「不安で仕方がないから、僕のベッドで一緒にねてくれる?」
母親は涙を流しながら、それはできないと言った。浩二のベッドは小さい上に、彼の体はチューブで縛られていたのだ。添えねは不可能だった。
 医者の宣告は厳しいものだった。厳粛な調子で告げた。
「三年間の治療は覚悟してください。その間、抗がん剤の副作用で頭の毛が抜けたり、肥満体になるかもしれません」
これを知って、浩二は一層落胆した。病気をコントロールすべは十分あると言われたが、白血病が死に至る病であることはすでに自覚できる年齢だった。
 入院初日から浩二はもう一つ母親に頼んでいることがあった。入院したら花をベッドの傍に置いてほしいという要求だった。これを聞いて浩二の叔母の文子が、駅前の花屋に電話して、切り花をさしたプランターを届けてもらうことにした。電話を受けた店員は若そうな女性で、声が甲高かった。文子叔母さんはこの花の手配がどれほど大切なものであるか、店員は未経験で分かっていないのだろうと思って、
「プランターは特別華やかなものにしてほしいの。白血病の甥にやるの。彼はまだ15歳なの」
 「まあ!」と店員は言った。声が震えていた。
「それでは切りたての花を添えて精一杯明るいものにしますわ」
 花が病院に届いた時、浩二は天井をだるそうに見上げていた体を起こして、花に添えられた封筒を開け、叔母さんからのメッセージを読んだ。もう一通メッセージがあった。それは花屋の店員からだった。
(浩二さん、叔母さんから注文をいただいた西村加奈と申します。駅前のベラフロルという名の花屋で働いています。私は七歳のとき白血病にかかりました。今は二十二歳です。きっと治りますから、お医者さんを信じて頑張ってください)
 彼は入院してから大勢の医者や看護婦に励まされてきたが、このメッセージを読んで、初めて自分がこの病気に打ち勝てると確信するようになった。
あるメッセージ Bigcat

『不思議の新衣装』考
ごんぱち

「ご隠居、いるかい。ちょいと物を聞きてえんだが」
「お前に知的好奇心なんてものがあるとは驚いたね。お話し」
「昔々あるところに」
「誰がおとぎ話をしろって言ったんだよ」
「ところがどっこい、おれはそのおとぎ話について聞きたいんで」
「そうなのかい」
「昔、南蛮に殿様がいて。着物を作ろうとしたら、呉服屋が『莫迦には見えない着物』ってぇのを売りつけやがった」
「ああ『裸の王様』という話か」
「おかしいじゃねえか。なんだって殿様は銭を払ったんで? 本物なら莫迦から『裸だ』と笑われるし、嘘ならただ銭を取られるだけだ」
「お前がおかしいと思うのも当然だ。この話は、見栄に目がくらんだものを、傍から笑う話だからな。最初は良い服が欲しいと考えた王様だが、莫迦に見えない服だと聞いた時点で、莫迦の証拠である『その服が見えない』という事を否定し続ける事で頭がいっぱいになってしまっている状態だな」
「なるほど……だとして、話が進んで、行列中に子供が裸だと言いますね」
「ああ。子供の目は正直なものだ」
「まわりの大人が乗っかるのはおかしいんじゃねえですか? 己も見えねえの何の言ったら、手前ぇで子供と変わらねえぐれぇの莫迦と言っている事にならぁ」
「知恵者が見えぬと言ってそれに従うのであれば、見栄や権威で見えぬ服を見えると言わせる王様と変わりはしない。この時点で、人々はその服とやらが本当にあるとは思っていないのだ」
「だったら、『あれ、ただの裸じゃねえか?』と銘々で話ゃ良いことでしょう」
「人間、『あれはただの裸ではないか、なあお前』と、その一言が言えぬのだ。周りが同調してくれなかったらどうだ。口火を切ってくれるものを待ち望み、そこに子供が一言を口にした。最初の一言の重ささえ失えば、後は動き始めた車輪のようなもの、これはさほどの力はいらぬ。あれよあれよと、人々は本当に見えた事を語り始めた訳だ。さて、めでたしめでたし……」
「早まっちゃいけねえ、ご隠居。最後に一番でっかいのが残ってらぁ」
「なんだ、もう嘘は暴かれただろう」
「町の連中はそれで良いかも知れねえが、殿様はどうしたんで? 無礼打ちの一つもしそうなもんですが」
「みんなが笑っているの中、角を曲がって見えなくなった辺りで、王様は別の服を着たというのが正しい終わり方だな」
「そんなこたぁ書いちゃいませんが、どこから読み取られるんで?」
「昔から言うだろう、笑う角には服着たる、とな」
『不思議の新衣装』考 ごんぱち

せ仙人
サヌキマオ

 不忍池の端の天神の社で横になっている。齢百を超えて神通力を得たのだから、もう仙人を名乗っていいだろうと決めた。次にお参りに来たやつの願いを聞いてやろうと思っているとまもなく参拝があって「悪の大王よ、この街を滅茶苦茶にしてください」という。女のこどもの声であった。下手なことを決めるものではない。
 後悔したがもう遅い。古来からこういうところで約束を違えると、ロクなことにならず。出来ない約束はしないのが仙人になる秘訣というもののひとつである。
 かつ、こどもの満足するかたちで街を滅茶苦茶にせねばならぬ。納豆はどうかと考えた。街中に大量の納豆が降り注いだらめちゃくちゃになるだろうと考えた。元来、仙人になる前から納豆は嫌いであった。想像するだに滅茶苦茶であった。しかし納豆はどこからか運ばねばならぬ。運ぶためには、具体的に納豆がどこにあるかを想像できねばならなかった。街中の、いや東京中のスーパーから納豆をかき集めてここ上野に集めるのだ。だが二つ問題があった。第一に「悪の大王」という要素がなく、第二に、協会から苦情が来る。協会とはもったいないお化けの協会である。正式にはもっといかめしい名前がついているのだが、要するに「食い物を粗末にするとすっとんできて罰則を課してくる付喪神の団体」である。下手な権力者よりも力がある。
「モノはいかん。モノはいかんということは……人か」
 ふと思いついた。
「みさえーっ。飯はまだか――っ!」
 ABBA前に突如あらわれた身長二十メートルの戸根はこちらの思っていた以上に耄碌していたらしく、持っていたステッキで辺りのビルを打ち崩し、いたるところに糞をなすりつけた。昔は鬼戸根といってウェーキ島に征った中でも屈強な部類に入ったが、こうなってしまってはもう何も覚えていないのか、
「大日本帝国ばんざ─────いッ! くたばれキノエ─────ッ!」
 いや、昔のことはよく覚えておった。木上キノエというのは我々のいた小隊の隊長で、実に陰険で嫌なやつだった。たしか船から逃げ出そうとしてモーターに巻き込まれて死んだはずだ――アメ横に集まった観光客や修学旅行生もはじめは面白がってスマホを向けて撮影していたが、これがフェイクでもヴァーチャルでもないことに気づくと四方八方に逃げていった。これで良し、次は戸根を元の大きさに戻してホームに帰さねばならないが、そこまでのことは全く考えていなかった。
せ仙人 サヌキマオ

赤い蝋燭
今月のゲスト:新美南吉

 山から里の方へ遊びにいった猿が一本の赤い蝋燭を拾いました。赤い蝋燭は沢山あるものではありません。それで猿は赤い蝋燭を花火だと思い込んでしまいました。
 猿は拾った赤い蝋燭を大事に山へ持って帰りました。
 山では大へんな騒になりました。何しろ花火などというものは、鹿にしてもししにしても兎にしても、亀にしても、いたちにしても、狸にしても、狐にしても、まだ一度も見たことがありません。その花火を猿が拾って来たというのであります。
「ほう、すばらしい」
「これは、すてきなものだ」
 鹿や猪や兎や亀や鼬や狸や狐が押合いへしあいして赤い蝋燭を覗きました。すると猿が、
「危い危い。そんなに近よってはいけない。爆発するから」といいました。
 みんなは驚いて後込しりごみしました。
 そこで猿は花火というものが、どんなに大きな音をして飛出すか、そしてどんなに美しく空にひろがるか、みんなに話して聞かせました。そんなに美しいものなら見たいものだとみんなは思いました。
「それなら、今晩山の頂上てつぺんに行ってあそこで打上げて見よう」と猿がいいました。みんなは大へん喜びました。夜の空に星をふりまくようにぱあっとひろがる花火を眼に浮べてみんなはうっとりしました。
 さて夜になりました。みんなは胸をおどらせて山の頂上にやって行きました。猿はもう赤い蝋燭を木の枝にくくりつけてみんなの来るのを待っていました。
 いよいよこれから花火を打上げることになりました。しかし困ったことが出来ました。と申しますのは、誰も花火に火をつけようとしなかったからです。みんな花火を見ることは好きでしたが火をつけにいくことは、好きでなかったのであります。
 これでは花火はあがりません。そこでくじをひいて、火をつけに行くものを決めることになりました。第一にあたったものは亀でありました。
 亀は元気を出して花火の方へやって行きました。だがうまく火をつけることが出来たでしょうか。いえ、いえ。亀は花火のそばまで来ると首が自然に引込んでしまって出て来なかったのでありました。
 そこでくじがまたひかれて、こんどは鼬が行くことになりました。鼬は亀よりは幾分ましでした。というのは首を引込めてしまわなかったからであります。しかし鼬はひどい近眼でありました。だから蝋燭のまわりをきょろきょろとうろついているばかりでありました。
 遂々とうとう猪が飛出しました。猪は全く勇しいけだものでした。猪はほんとうにやっていって火をつけてしまいました。
 みんなはびっくりして草むらに飛込み耳を固くふさぎました。耳ばかりでなく眼もふさいでしまいました。
 しかし蝋燭はぽんともいわずに静かに燃えているばかりでした。