≪表紙へ

1000字小説バトル

≪1000字小説バトル表紙へ

1000字小説バトルstage4
第7回バトル 作品

参加作品一覧

(2018年 7月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
巌谷小波
957

結果発表

投票結果の発表中です。

※投票の受付は終了しました。

  • QBOOKSでは原則的に作品に校正を加えません。明らかな誤字などが見つかりましても、そのまま掲載しています。ご了承ください。
  • 修正、公開停止依頼など

    QBOOKSインフォデスクのページよりご連絡ください。

ハッピータイム
小笠原寿夫

 十二時から十二時間が回り、時計の針は、長針と短針が平行線を辿る。冷房の効きすぎた部屋で、一人、パソコンに向かう。
 今朝、小火騒ぎがあった。煙草の火の不始末が原因らしい。日本のどこかで、それが起こっている。以上、日本のどこかでニュースの時間でした。
 昨日、未明。彼女に振られた。一線を越えてしまったことが原因だ。以上、日本の誰かがニュースでした。
 本能寺の変があった。織田信長は、火の中で舞を踊った。以上、日本のいつかにニュースでした。
 と、三段オチを決めたところで、書くのを躊躇う。この文章が、果たして、誰かの役に立っているのか、と。
「するってぇと、お前さん。何かい?手を洗わねぇで、飯が食えんのかい?」
 髪型を見れば、大体のことは分かる。纏めよう。表に纏めよう。乱数表が、何かっていうことなんて、システムエンジニアが考えればいい。
「ようこそ。お客様サポートセンターへ。この電話は、サービス向上のため、予め録音させていただいております。改めて、ご了承ください。」
 要するに、笑いに惚れた、といったところで、モテたいだけの口実だったりする。
「いや~、しかし、最近怖いニュースが少ないねぇ。」
「話終わってまうがな。」
と、この様に漫才を壊す。
「いやいや、怖いニュースなんかあらへんで。」
「それ言うたら終わりやがな。」
漫才を収束に向かわせるには、オチが必要。それは、本当の話で、事態は収束に向かう。
 諦め。これが人間に許された特権である。
「もうええわ。」
で、漫才は終わる。それは、仏法で言うところの諦め。
 つまり、どんな困難があろうとも、人間はどこかで諦める。
 纏めよう。表に纏めよう。

 カイザーナックル インストラクター
 ヤジロベー    ターザン

ターザンが、
「アッアアー!」
と叫ぶ。あれはなんて叫んでいるのかという大喜利の答えを、いくつか紹介しよう。
「助けてー!」
これが、まずひとつ。
「アッアアーってどういう意味でしたっけ!」
これが二つ。
「ロ、ロ、ロ、ローマ!」
これが、三つ。
「あほにもの言うとんか。」
と、最後に、パクッと饅頭を食べて、母は、
「最後のが一番うまかった。」
と、あっけらかんと言う。

 そこで、疑問を投げかけた。
「何が旨いねん。」
「饅頭。」
「あほにもの言うとんか。」
「それ、あほ。」
「皆あほとちゃうねん。」
「お前に食わせる坦麺はねぇ!」
と、
「寝え。」
が、かかっていた。
「あら、いらっしゃい。」
ハッピータイム 小笠原寿夫

痔切る博士とおいど氏
サヌキマオ

 ウチの祖父なんですがね『世の中に直腸検査ほど情けないものはない』って言ってたそうです。ええ、ボクが一歳のときに亡くなっているので、又聞きみたいなもんですがね……まぁ、昔の大工だったんで、あれでもウェーキ島まで行って帰ってきた兵隊だったんで、それなりだったとは思います。でも、直腸検査は嫌だった。もっと他の病気だったと思うんですが、その場で痔が見つかって。ええ、本人に自覚がないんですから大したことなかったんでしょうが、むしろそっちを取ろうという話になった。職人がですよ。昔のことですからね、で、参っちゃった。しばらく引き籠ったと聞いています。いやぁ、
――こんな場所で、するような話でもなかったですなぁ!

 あ、かまわない? 話題は何でもいい? そういってもらえると助かりますが。ずいぶん若くして死にました。六十五で、クモ膜下で。ボクが生まれて半年くらいで倒れまして、しばらく病院にいて、それっきり。
 え、そんな興味あります?
 あ、話のついで? ま、そうですよね。話であればなんでもいい。そうっすよね。えー、あと三日。ホントに。
 何百万もかけて月まで来て!
 眼下に広がる地球を見ながら!
 一週間前に出会ったああたと実際にあった記憶もない祖父の痔の話! ワハハワハハハハ!
 はぁ。

 あ、ご飯だ。ご飯行きましょう。ご飯だけが楽しみ。三度々々ご飯食べて、あとはずーっと地球を眺めるだけ。
 今日は……ああ、また会ったね。鯵の干物。昨日は塩サバの焼いたの。え、昨日はホッケだった? いいんですよ、だいたい五日に一遍くらいでローテーションしてんだ。この冷奴は三日に一遍。いや、朝、味噌汁は豆腐でしたよね? そうだそうだ。豆腐だけは毎食毎食食卓の何処かに潜んでいるのかもしれない。
 パンに練り込んでみたり。
 角砂糖の代わりに砂糖壺に詰まってひっそりしてみたり。はい、すみません、今行きます。
 ぼかぁね、地球に帰ったらこのことを書こうと思うんだ。え、旅行記? 莫迦おっしゃい。旅行ったってこのドームでブラブラして、たまに地球を見て飯食って寝るだけ。これは旅行じゃないよ? 軟禁だよ? ぼかぁね、月面ステイツアーってんなら、もっとレジャーを求めたい! テニスコート置くとか、プール置くとか! そういう糾弾を書いて世に広めたい!

 その時、大勢の兎と肛門科医たちが、窓の外から怒れる人類を見物しているとは気づきませんでした。
痔切る博士とおいど氏 サヌキマオ

OMSB症候群
ごんぱち

 おじいさんがおむすびを転がすと、ころころころころ山の斜面を転がって、小さな穴にすっこん、と落ちました。
「おむすびころりん、すっこんこん、ころころころりん、すっこんこん!」
 するとどうでしょう。おむすびが落ちた穴から、なんとも賑やかで楽しげな声が聞こえて来ました。
 おじいさんは、もう一度おむすびを転がしてみます。次のおむすびも転がって、やっぱり穴に落ちました。
「おむすびころりん、すっこんこん、ころころころりん、すっこんこん!」
 もう一つ転がして、やっぱり穴にすっこん。
「おむすび? ころりん、すっこんこん……ころころころりん、すっこんこん」
 おじいさんは、もう転がさず、次々におむすびを落としていきます。その度に、声は聞こえ続けました。
 おじいさんがコンテナに用意していた百を下らないおむすびは、みるみるなくなっていきます。
 その度に、声は聞こえ続けました。
 そしてとうとう、おじいさんは最後の一つを落としました。
「おむすびころりん、すっこんこん! ころころころりん、すっこんこん!!!」

「――えー、検証の結果、梅、おかか、こぶ、わかめ、ツナマヨに関しては、標準1に該当する反応、これをゼロとした場合、肉巻きがマイナス3、しおむすび、五穀米ちりめんがマイナス1、スパム、辛子高菜、鮭がプラス1、いくら、すじこ、たらこ、辛子明太子がプラス2、そして最も高い反応を見せたのが、おかかチーズでした。これらから、『無限穴』の声の主はネズミから進化した生物である可能性が高いとの仮説を立て、さらなる実験を行う予定です」
「四谷博士」
「なんでしょう、総理?」
「さっさと穴を掘り返すなり、ファイバースコープを挿入するなり、もっと簡単に地底人と接触出来る方法はあるのではないか?」
「以前も申し上げた通り、そういった行為は彼らの敵愾心を呼び覚ますだけだと考えます」
「好物ははっきりしているのだ、地上に連れ出して目の前に積み上げてやれば良い。それで大喜びだろう」
「我々が彼らに対して把握している唯一の好意的接触方法がおむすびです。それ以外の方法を取る事で、おむすびさえもコミュニケーション手段として成り立たなくなる可能性もあります。過去の検証者の九割がモグラになった事も、看過出来ないと考えております」
「そろそろ急いでも良い頃だと思うだがね! チリで地中に沈んだ炉心は地殻を抜けて、刻一刻と日本に迫っているのだから!」
OMSB症候群 ごんぱち

鬼払い
今月のゲスト:巌谷小波

 まずある所にお爺さんとお婆さんとがありました。自分の児が軍人に成って、戦に出て居りますのに、家が至って貧乏ですから、どうかしてお金が欲しいと思って居りました。
 すると、ある晩一匹の鬼が、大きな金函をかかえて来ましたが、お爺さんに向いまして、
『お金が欲しけりゃ貸してやろう。その代りこれが返せなければ、お前の命を取ってしまうぞ』
と云います。
お爺さんはお金の欲しい時ですから、直ぐに命を抵当かたに入れて、そのお金を借りました。

 けれどもお爺さんは好い人で、その鬼から借りたお金は、大方人に恵んでしまったものですから、約束の日が来ましても、どうしても返せませんので、大きに弱って居りました。

 するとその晩の事です。鬼は表の戸を叩いて、
『サア金を返してくれ! 金が出来なけりゃ命を取るぞ』
と云います。
 お爺さんは吃驚して、
『ソリャ大変だ』
と云いながら、戸棚の中へ逃げ込んだ、ブルブル震えて居りますと、お婆さんは
『お爺さん、そんなに心配する事は無いよ。私がうまい事を考えたから』
と、云いながら、棚の隅から古い瓢箪を持ち出し、その口を戸の隙間へ当てがって、
『鬼さん、鬼さん、よくいらっしゃいました。ではどうぞお入り下さい』
『そんなら入るが、全体どこから入れるんだ』
『さァこの穴からご遠慮なく』
『ヨシ、入るぞ』
と、云いながら、鬼は身体を小さくして、いきなり戸の隙間から、瓢箪の口へ飛び込みました。ところをお婆さんは待ちかまえて、いきなり口を堅く詰めました。
『お爺さん、お爺さん、鬼を生捕にしてやったから、もう大丈夫だ、大丈夫だ』
と、云うのでお爺さんも安心して、戸棚の中から這い出しましたが、これからはこの瓢箪を、囲炉裏の上に釣りあげて、滅多に鬼の出られない様にしておいたのです。

 そうするうちに、息子の軍人は、戦から帰って来ましたが、その時の御褒美に、勲章やお金を貰って来ましたので、お爺さんは大きに喜びましたが、また鬼の事を思い出し、なんぼ鬼の物でも、借りた物は返さなければならないと、お婆さんにも相談して、まず瓢箪の口をあけ、中から鬼を出してやって、お金を返そうとしますと、鬼はお金より人が食いたいので、いきなりお爺さんに飛びつきましたが、側に居た軍人を見ますと、キャッと云って頭を抱え、お金も取らずに逃げてしまいましたとさ。