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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第10回バトル 作品

参加作品一覧

(2018年 10月)
文字数
1
ごんぱち
1000
2
サヌキマオ
1000
3
永井隆
1199

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実は人間だった屋
ごんぱち

「いらっしゃいませ、実は人間だった屋へようこそ。スタンダードなものから意外なものまで、各種取り揃えております」
「じゃあ……この『普通に人間でしたよね』、ってのは?」
「はい。叙述トリックで、『実は幽霊』という他店商品とも少し似てますね。ちょっと人間じゃない風に言っているけど、注意深く読んでいたら人間の事を言っているまたは、全くヒントはなかったけど後から読むと確かにそうだ、というやり取りです。例えば、このカウンターなんかそうですね」
「ええ、なんで、四つん這いに猿ぐつわの人を、カウンターとして使っているのか気にはなっていました」
「んー、んーー!」
「ピースサインしてますね」
「時給が良いんですよ」
「『動物かと思ったら系』というのは?」
「これは人間さんが買うというより、地球人以外の方向けの商品になっておりますので、関税高いです。前述の叙述トリック寄りですね。金属すら腐食させる毒ガスを吸ってエネルギーにするとか、凶暴で満腹にさせているにも関わらず死に至るまでの喧嘩をするとか」
「『怪物かと思ったら』ってのは同一ヴァリエーション?」
「これはお売り出来ますよ。むしろ品余りです。怪物っぽいんだけど人間を材料にしていますので、映像作品でも利用できます。人間の形を保っているタイプと、そうでないタイプがあります」
「保ってたらダメじゃないか?」
「人間によく似た怪物が出る状況下ではよく使えますよ。ゾンビとか」
「ああ、なるほど」
「思い出の品とかを見せると反応するタイプと、全く反応しないタイプがあります」
「どっちもアッと驚く凄い展開だと思うんだけど……」
「一番最初ならそうでしょうけれど、聖戦士に同じ技が二度通用しないのは最早常識ですしね」
「そういう意味では、既存はどれもダメじゃないか?」
「まあ使い様ですが、そういうお客様向けにオーダーメイドもございます。お客様ラッキーですよ、キャンペーン期間なので、二割引で承ります」
「ほほう、じゃあ見積もり出してくれ。食べ物なんだよ、もう当たり前の感じに食べるんだけど、実はそれが人間を加工したもので、それがそうだな、よく知った、そう、行方不明の身内とか、最愛の人でも良い。それを旨いと思って食べている時と、それを明かされた瞬間の落差、それをバラす悪意、これは人の感情が激しくのたうち回る恐るべき場面が展開されるじゃないか! これは凄い、凄いぞ!」
「はーい、カチカチ一丁ー」
実は人間だった屋 ごんぱち

商談
サヌキマオ

 いつもの隅の止まり木で飲んでいると隣に男が座ってきた。古いトレンチコートで入ってくるのがいかにも時代めいていたが、若くて軽薄な男だった。「いやぁ、すごい雨ですな」を皮切りに、こういう日に飲みに出るということはあなたもご同類に違いない、と一気にまくしたてた。そうかもしれんね、と答えた。男はビールを頼んだ。まもなく背の高いグラスに一杯のハートランドが出てくる。や、どーも、と云ったか云わないか、男はグラスを半分ほど開けた。それほどいい男には見えなかった。
 最初は雨の日の川釣りの話をしていたのだが、おもむろに「いい話があるんですがね」と切り出された。旦那さんは、今なにか欲しいものはありませんか。欲しいったら女かな。嘘ですよ、本当は旦那さん女性なんか欲しがってない。なんでわかるんだい。本当に欲しいんだったら、こうなるからです。
 男は指をひとつ鳴らすとあっという間に肌の黒い、むんむんとした若い女になってしまう。ずいぶん胸元の開いた革の服を着ていて、俺は反射的に目を背けてしまう。ほら、違うじゃありませんか。止せよ悪い酒だ。だから、女じゃないんですよ。わかったよ畜生め。じゃあなんだろう、金かなぁ。お金、欲しいですか? いや、そうでもない気がしてきた。そうでしょうね。
 お前が言えって云ったんじゃないか。俺は腹が立って男を睨みつけた。なんて軽薄な笑みだろう。しかし、いい男だった。男の俺から見ていい男だった。なんだろう、女にもてる顔というのがあって、そういうのはあんまりよく思わないに決まっているのだが、それとは別に、いい男だった。
「若さ、かなぁ」
「欲しいですか、若さ」
「それでアレだろ、お前はそういったなりで俺の目の前に出てきたと云いたいんだな?」
「この若さが手に入るとしたら、どうします」
「どうします、って」
 俺は頭を落ち着けるためにグラスの中身を啜った。ずいぶんと口の中が乾いていて、氷があらかた溶けたラムが染み渡る。
「何が欲しいんだ」
「何が釣り合うと思います」
 俺はテーブルに突っ伏してしばらく考えたが、思いついたので起き上がる。
「お前ね、そういうのってさ、売る側が『この商品はおいくらです』って値段をつけてくるもんなんじゃないの?」

「……ねぇマスター、隅のお客さん、ずーっと壁の木目に向かって話しかけてるんだけど?」
 そんな客放っといたらいいじゃねえか。俺は今、大事な商談の途中なんだぞッ!
商談 サヌキマオ

判決
今月のゲスト:永井隆

 ねずみが暴れるので山田さんからねずみおとしを借りて来て台所に仕掛けた。子供らが寝しずまると間もなく、ことことやり出した。切芋を引きに出て来たなと思って耳をすましていると、パシッとかかった。誠一を起し、ろうそくに火をつけさせて、障子をあける。てらし出された板の間の、ねずみおとしの中にうごくもの――何だか居直り強盗にでも向うような気がした。火を近づけると、ねずみはあわて出した。あわてるのを見たら、こわくなくなった。何とかして抜け出そうと金網の中でてんてこ舞いをしている。誠一も私も息をこらしてじっと見ている。そのうちに、ねずみはついにあきらめたものか、向うのすみにうずくまってしまった。誠一が火ばしでつついてもじっとしている。動かぬ奴は面白くない。誠一がくしゃみをした。私らはろうそくの火を消して寝床にもどった。昨夜まで暴れて、われわれの乏しい配給品を食い荒らした犯人が、まんまと捕われたのに限りない満足をおぼえて、私はぐっすり眠りこんでしまった。
 ねずみの裁判は夜が明けてから行われた。誠一が執行官となり、おごそかに水殺の刑に処した。死がいを隣のねこに進呈した。

 三日目の夜もう一匹取れた。ろうそくの火に照らされ今夜の奴はとてもあわてた。逃げようとしてむちゃくちゃにあせっている。右にとび、左にかえり、ぶっつかる先々の金網の目の中へとんがり鼻を突込んで、こじるものだから、鼻の頭はいつしか血まみれになった。それでもなおあきらめず、上へととびあがり、底をさがし、はては所きらわず、金網にかじりついて、かみ切る気である。みていてとても面白い。ろうそくの短くなるのも気にかけず飽かず眺めた。ねずみはいよいよあせり狂う。歯も折ってしまった。いのち惜しさに恥も外聞もない。私はしだいに腹を立ててきた。見苦しいぞッとどなった。この前のねずみは、とても助からぬと知るや、泰然自若として運命を待った。小さいながらその姿は私を威圧するものをもっていた。私は軽い畏れをさえ感じて、誠一のくしゃみを好いしおに引下がったのだった。それだのに、此奴のざまは何だ。見苦しくて、見るさえ目の汚れになるようだ。
「今すぐ、やっつけてしまえ!」
 私は誠一に云いつけた。
「どうしようか?」と誠一がたずねた。
「煮え湯をぶっかけろ。皮をむいて、天ぷらにして食っちまえ!」

 ねずみの天ぷらはおいしかった。しっぽは骨ばかりで食えなかったが、頭は鼻のさきまでたべられた。肉は小鳥ほどでもなかったが、臭味も癖もなく、若いにわとりのようだった。
「この前のも隣のねこにやらずに食べたらよかったねえ」
「うん、惜しいことをしたな。うまいはずだよ。人間と同じものしか食わぬのだから」

 からっぽになった皿を前において、舌なめずりしながら私は考えた。どうせ死ぬと決まってからは、じたばたせぬがよいわい。じたばたすると、かえって死期を繰上げられるかも知れぬ――