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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage4
第13回バトル 作品

参加作品一覧

(2019年1月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
ごんぱち
1000
3
織田作之助
1317

結果発表

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猫遣い vs 猫の話
サヌキマオ

 猫は人間には従わず自由気ままに生きるものであるが、発想を逆転して「『自由気ままに生きていると本猫は思っているが、その実コントロールされている』という状況は作り出せないか」という人があった。この思いつきから開発されたのが「量子力猫言うこと聞かせ機」である。「量子力猫言うこと聞かせ機」は紆余曲折あって「猫ボール」と命名されて公開された。
 猫ボールは名の通りピンポン玉大の球状をしている。装置から発生される「猫なんとなくその気になる電波」(CNS波・2025)が猫の脳に働きかけ「なんとなく水洗便器で糞をしたくなる」「なんとなく水洗のコックをひねる」「なんとなく皿から溢れたカリカリから先に食べる」などの行動を起こさせしむる。2027年には異なる波長のCNS波を組み合わせることによって、より複雑な行動をさせる気が起きるようにさせしめることが可能となった。具体的には「咥えた手紙を運ぶ」「道端のゴミを拾って一箇所に集める」などの行動である。
 2031年、住宅街の一角にCNS波のアンテナを張り巡らせた実験では、郵便局から民家への郵便の配達に成功する。この実験が報道されるやいなや、一斉に官民の企業がCNS波の商用利用に向けての計画を詳らかにし始めた。猫を使った軽量物の流通(2033)、猫を使ったうどん造り(2041)……猫の手を借りた産業はまさに猫の家畜化、いや「市民化」といっても差し支えないだろう。

「や、ご苦労さまです」
 こんなに頑丈な扉にしなくてもいいのに、と来るたびに思う。犬似颯之介、SNC波の発明者その人だ。忙殺されてつい二週間ぶりになってしまったが、病棟は一切の時が止まっているように思える。それはまた、颯之介が目まぐるしく変化する世の中に常に身をおいているからだ。
 褪せたミントグリーンの廊下の奥では多目的ルームのドアが開けたなたれている。よく暖房のきいた広い部屋の中で、ジャージ姿の男女が幾人も床に寝転がったり元気よく飛び跳ねてたりしている。
「犬似さん、息子さんがお見えですよ」
 颯之介に付き添ってくれた主治医が声をかけると、ソファでうつ伏せに寝そべっていた父がチラとこちらを見て、大儀そうに尻をくねくねと振ってみせた。
「まぁ、概ね元気ですよ。こっちに来るのが億劫なので『来たのは判っている』と意思表示だけしてくれたんでしょう」
 どうみても猫が憑いたとしか思えない、という患者が爆発的に増えているそうである。
猫遣い vs 猫の話    サヌキマオ

ヘッテルギウス氏とストーカーさん
ごんぱち

 硫黄の煙と共に、悪魔のヘッテルギウス氏が魔方陣の中に現れた。
 尖った尻尾と耳、僅かに見える牙の他は、白いスーツに伊達なシャツの洒落た紳士然とした姿だった。
「まさか……本当に?」
 呆然とした顔で、ローブのフードをかぶった人間がヘッテルギウス氏を見つめる。まだ若いが、目の隈の深い、ひどくやつれた顔をした女だった。
 召喚儀式が行われたているのは女の部屋のようだった。壁にはとある男性芸能人の写真が貼り詰められ、元の壁紙は隙間も見えない。写真はプリントアウトしたものもあれば雑誌や新聞の切り抜きもある。
「お喚びでしょうか? わたくし、悪魔のヘッテルギウスと申します。対価と引き替えに、それに見合った如何なる願いも叶えましょう」
「それが本当の証拠は!」
「その魔道書に記載された、魔方陣内の悪魔への暴力的な術式は、わたくしの悪意を抑制する手段としては十分な威力を持つと考えますが?」
「そ、そうね。わかった」
 女はポケットからメモを出し、確認しながら願いを伝えた。

「アレクサンドロス!」
 地獄の四丁目のバーのカウンター席で、ヘッテルギウス氏は注文を出す。
 バーテンダーのニスシチは、シェーカーに材料のブランデーとクレーム・ド・カカオそれに、バジリスクの乳のクリームを入れ、シェークする。
「ご機嫌ですね?」
「最近七年ばかりね」
 ヘッテルギウス氏は、カウンターに置かれた石になっていくカクテルグラスを取り、一息に飲み干す。
「芸能人相手のストーカーの恋の成就でしたか。大天使カマエル組からクレーム入りませんか?」
「運命操作をしている訳じゃあない。接触機会を持たせるよう行動を誘導した後、肉欲を刺激するだけさ」
「なるほど。でもそれでは、魂の半分が良いところでしょう」
「言葉も交わした事のない相手に、一方的に恋い焦がれるしか出来なかった人間が」
 ヘッテルギウス氏は、つまみの炒り甲虫をかみ砕いた。
「悪魔に頼れば成就できるって事を、知ったんだぜ?」

「ねえ、あなた」
「なんだい?」
「離婚して欲しいの。他に好きな人が出来たから」
「一夜の責任を取れと押し切ったのは君だったと思うが、まあ良いさ。下らん慰謝料請求なんてのは止めてくれよ、君の有責なんだから」
「それについて、少し話しましょう。丁度お茶を淹れたところだから」

「――回数を重ねたら流石に本人の魂だけじゃ足りなくなりませんか?」
「その意味では、ありゃあ掘り出し物だったな」
ヘッテルギウス氏とストーカーさん    ごんぱち

鴉金/猫の蚤
今月のゲスト:織田作之助

鴉金からすがね
 家業は寿司屋だったが、はやらず、年中貧乏していた。頼母子を落し、無尽を食い、保険を食ったあげく、いよいよ食うに困って、高利貸に借りた。百円借りて、三十日限りの利息天引きで、六十円しか入らず、毎日日が暮れると、自転車で来て、その日の売りあげをさらって行った。俗にいう鴉金だ。ひどい奴めと、その後ろ姿へまく塩すら、諸事倹約の暮しだった。
 売りあげの少ない時は、自転車に錠をかけて、高利貸の居催促がきびしく、女房は日の暮れるのを待たず、質屋へ走った。たび重なっては風呂敷包みでは恥ずかしく、出前用の提箱(岡持)に質種をいれて、外聞をかくした。
 界隈にあるほどの質屋の暖簾を、どれ一つくぐらぬことはなかった。通っているうちに、ものによっては他店よそより高く貸す店がわかり、一軒で質入れした金を握って、べつの店へ出向き、そこで受け出した品を、また別の高く貸す店へ質入すれば、少しは手に握る金も多くなるだろうと、このやりくりに質屋から質屋へ提箱をさげて駆けずり回った。
 そのようにしょっちゅう提箱をさげて町を駆けずり回っている姿を見て、人々は、よう出前のある店やな、えらい繁昌しているやないかと、目を見張った。だんだんにそれが評判になり、本当に繁昌した。もうこれで、食うに困ることもあるまいと、夫婦はほっとした。
 しかも女房は相変わらず、提箱をさげて質屋の暖簾をくぐった。けれど、その提箱のなかには、質屋が注文した寿司がはいっているのだった。

猫の蚤
 岡部太市。三十六の男。平凡な顔の、平凡な男。
 たったひとつ、ひどく吝嗇である。焼き芋なぞめったに買うことはないが、買えば、その包み紙の皺を伸ばして、丁寧にしまっておく。鼻紙に使うようなこともしない(汚い話だが、手洟をかむ)。
 太市に一人の叔母がある。裕福な暮らしをしている。残酷な話だが、太市はこの叔母の死ぬのを待っている。
 叔母が死ぬ。太市は駆けつけて、形見分けに無理言って狐の襟巻を貰う。着物なぞ貰うより値が張ってよいと、太市はこれを喜ぶ。
 吝嗇のくせに太市は暮らしに困る。太市は狐の襟巻を売ることにする。しかし、今の時節に狐の襟巻のような贅沢なものを首に巻く人はない。従って売れない。質屋も受け付けぬ。
 太市は困る。
 ある日、太市は年来貯めてある紙片、反古の類を整頓する。その一枚にふと目がとまる。古い小説本の切れはしらしく、こんなことが書いてある。
「五十歳位の男が、風呂敷包みを肩にかけて、猫の蚤とりましょ、猫の蚤とりましょと触れ歩く。猫好きな隠居方が呼び入れて、猫の蚤をとってくれと頼むと、一匹三文ずつに決めて、とり始める。まず猫に湯をかけて洗い、濡れた体を狼の皮で包み、暫く抱えていると、蚤どもは濡れた体を嫌って、みな狼の皮に移ってしまう。そこをすかさず大道へ振り落とす」
 太市は狐の襟巻を肩にかついで、猫の蚤をとりましょ、猫の蚤をとりましょと触れ歩く。大猫一匹十五銭のつもりである。仔猫は十銭。なお、道々、猫の卵もとりたいが、これはどうすればよいだろうかなど考える。しかし一軒も呼び入れてくれない。昔と今とではこんなことでも違うのかと、一銭にもならず、すごすご帰る。