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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第16回バトル 作品

参加作品一覧

(2019年 4月)
文字数
1
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
日向きむ
1467

結果発表

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(本作品は掲載を終了しました)

海底二、三マイル
サヌキマオ

 はじめてできた彼氏のユウ君がうちに来ることになったの! 中間テスト前なので勉強会ということなんだけど、それだけだとどうしても彼氏彼女じゃないなーって思ってしばらく悩んでて、それでとうとう「手料理を食べさせよう」と決意したのでした。ユウ君が家に来るのだって親には絶対にこんなこと言えないから、ママがテニスサークルのあとに飲み会を入れる日を見計らって約束したんだけど、ユウ君はなにか食べたいものある? って聞いたら「特に」って云う。あ、でも、「ということは、昼飯は抜いたほうがいいのかな」だって。いいのいいのそこまでしないで、ユウ君もお母さんに「今日飯いらないから」って云うのめんどくさいでしょ、って云って、とはいえそこまで期待されちゃうと失敗できないのがプレッシャー。もうどうしよう!……なんらか理由をつけてお母さんと練習しておいたほうがいいのかな?

◇簡単!スタミナ生姜焼◇
材料(2人)
さんま7尾
ちりとり 1/2個
海底 2~3マイル
忸怩 大さじ2
姫路城 2区画
禅 少々
アルミ粉 少々

①さんまはぶつ切りにして赤方偏移させたものをちりとり、アルミ粉、海底、忸怩を禅的解釈したもので和え、漬け汁にしばらく浸しておく。
②姫路城はよくコペルニクス的転回したものをスライスし、鴨川の水でよく洗いつつ「東京レジャー娘」を10時間程度聞かせておく。
①、②に同じ釜の飯を食わせたあと隅田川のほとりに連れていき、7月の夜空に広がる大スペクタクルを楽しまない。
 完成! 好みによっては天台声明の聞き書きプリントアウトを貼り付ける。

 あーあ。
 失敗しちゃった、で済む話かどうかわからないけど、結局は近所の人が救急車を呼んじゃったみたいで、ユウ君は口からジンベエザメをはみ出させたまま病院に搬送されていっちゃった。海底を料理を使うときにはちゃんと下ごしらえをしなきゃいけないみたい。そうじゃないと、中にいる魚が全部出てなくて、今回みたいなことが起こるんだって。当然ママにはめっちゃ怒られたんだけど、ユウ君はアゴを外したくらいで済んだから気にしないって言ってくれたし、ママも「そんな素敵なことなんだったらママだってヌミちゃんをちゃんと特訓しなきゃ!」って言ってくれたし、ホント私って幸せだと思う。
 今度はちゃんと海底の下ごしらえもちゃんとしなきゃ。ユウ君が次はハンバーグがいいって言うから、来週末ロシアにウランを掘りに行くことにしました。
海底二、三マイル サヌキマオ

ごんぱち

「なあ蒲田、こいつを見てくれ」
「ん? ユニクロ二九八〇円ジーパンがどうかしたか、四谷?」
「リーヴァイスのCEOが、『ジーパンは洗わない』と言っていたんだよ。だとすると、これは洗わずに履き続けるべきなんだろうか? だが洗わなかった場合、汚れはどうなる? 汚れていても良いのか? それとも、『洗わない』という言葉の中には、『オレ風呂入ってないんだよ』と言いながら、湯船に入っていない程度の意味で、実際にはシャワーは浴びているし石鹸で身体はこすっているし、というようなのと同様に、家庭の洗濯機で洗わない、という程度の意味で、実際にはクリーニングに出しているとか、オゾン洗浄しているとか、そういう事なのか!」
「落ち着け、四谷、ちょっとニトロでも飲め」
「ぜぇぜぇ、処方されてないぞ、ニトロなんて」
「あたぼうよ、これはニトロと見せかけて!」
「うわぁ、マグロの煮物だ! こいつはうまそうだ!」
「そう、ニトロこと、煮トロ! 余らせた大トロを煮たものだ! 勿体ないと言う向きもあろうが、本来的にトロは脂が多すぎて冷凍技術の発展していない近代以前にあっては絶望的に刺身に向かぬ部位! それを食べる為にネギと煮た葱鮪はむしろ伝統的なトロの食べ方と言える! だから良いんだ、これで良いんだ!」
「むむむ、こってりしているがしつこくなく、魚故の柔らかな肉質は、上質の肉を食べているかのよう!」
「仏教の影響で肉を食べなかった江戸時代の人間がこれをどのように受け入れたかは想像に難くない! つまりニトロとはそういう位置づけ! 間違いなく庶民的な楽しみの一つだったと言えよう!」
「うまい、うまいぞ、わはっは、うまいなぁ!」
「うまいものを食べれば、些細な事はどうでも良くなる! これは脳内物質が良い感じに出るから! つまりヘロイン常習者がトイレを流さなくなるのと同じだ!」
「はっ!? ひょっとして、ジーパンを洗わないのも?」
「洗わない。ヘロイン常習者、ならね」
「でもオレはヘロイン常習者じゃない! だとしたら、オレはジーパンを洗っても良いんだ!」
「そう、そうとも! よく気付いた、おめでとう、おめでとう」
「おめでとう」
「オメデートゴザイマース!」
「ああっ、リーヴァイスのCEO!?」
「イイエ、チガイマース、ワタシ、リー・バイスの瀬尾デース」
「え? 人名? それとも店名?」
「オメデトウ」
「おめでとう」
「そして、全ての人類に」
「「「清潔に勝る装いなし」」」
G ごんぱち

おもいのあと
今月のゲスト:日向きむ

 ◯ 白い窓
 日の光はここよりも明るかった、ほそい円い間をひろくあけた鉄格子まで白く塗った窓の内には、菊に似た、ダリヤに似た一寸絲細工毛の様に見える赤い花と、紅白まだらな花とが、カットグラスの六角の様な花瓶にさしてある。早い午後の日光をうけてダイヤモンドの様に黄や紫に光って居た。レースのカーテンがその花瓶の置いてある方によせられて、浅い水色とクリームのさらさ紙を張って細工硝子の様にした窓の障子がなかばあいて居た。外はすぐ往来で、内に立ってながめる人の右手から左手に上って行くほそい而して石の多い坂みちであった。
 ここは水清い川沿いから山手にのぼり、山手から市などの立つ街に下りて行く通路になっている。それでも朝と夕ぐれの外は往来の人といってはちらほらある位の事で、午後は長閑にねむいほど温い。はんだいの中の浅い水を尾ひれに飛ばしてはねている魚も、紫や白の香高い花束も、みなこの一つ窓から買い入れる。
 何処かの寺院の鐘が黄金の舌で何かいう様に聞えた。
 種々な果実を青い葉を敷いた籠にこぼれる程入れて、頭にのせて窓のあたりをゆっくり過ぎてゆく若者を呼びとめて、私は手のついた小さい提籠に一杯紅の露のようなストロベレーを買った。雪の様に白いベッドの上に昨日の登山の疲れをやすめて横になっている嘉代子さんを呼びさまして、籠を釣す様にして見せると、嬉しそうに微笑して、幾滴の涙で? と云った。私には何の事だかわからなかった。嘉代子さんがその朝から持っていたうすい小さい詩集はクリスチナ・ロセッチーであった。嘉代子さんは左の手をのべてそれを私に無言で渡した。私はそれを受取って一番さきのゴブリン・マーケットを読んだ。而して私はほほえんだ。
 その夜はひろい二人の臥床が神の翅に覆われて詩の中に落ち込んでいった。

◯ さすらい
 遠く故郷をおもう情を胸に抱いて、私は薄明の海辺に彳んで居た。暴風雨の前駆の強い風が裾や袂を吹き返す。干潟に残る水たまりに暗い沖の横雲の隙から、物凄く光る空が所々影を映して、今にも大山の様に転って来て、獅子の様に吠えたける大浪を予言して居る。遠くの方から最早ただならぬ潮のうめきが段々近よって来る。後から後から大きな力で押されて来る様な風は、刻一刻強くなって来る。絹を裂く様な、人の泣く様な声をあげて、鳴きながら海鳥は大きい輪がたを描いて、高く低く飛びめぐる、沖の方が真暗になって来た。
 この大活動に入ろうとする自然の裡に、人間は小さな私ひとりしか居なかった。

◯ 水の影
 誰もいない。何の音もしない。
 若葉の木々の枝さし交した細みちの奥の山川、春ふかい日かげが、ぬるんだ水に柔らかく射し込んでいる。水上から漂うて来た桜の花びらが。なかば朽ちたほそ杭のまわりに集って浮いている。私の髪からヘーヤピンが落ちて、音もなく沈んでいったのに驚いた目高の群は、急に方向をかえて向の岸に水面をうすくすくう様に渡って行った。
 水中に影が揺らぐ。動かぬ水の底にほのめく小さい小さい、夢のかげ!
 水晶の様に透徹った水のたましいよ、躍る水影に生命やどって生ける物となったか、あわれ小さき芝えび!

 嘉代子さんの歌が聞える。無邪気な快活な『子供の歌』を又うたっている。

1. Where the pools are bright and deep,
Where the grey trout lies asleep,
Up the river and over the lea,
That's the way for Billy and me.

2. Where the blackbird sings the latest,
Where the hawthorn blooms the sweetest,
Where the nestlings chirp and flee,
That's the way for Billy and me.