陽は傾きつつあった。Sはペダルを踏む、寂れた城下の外れ近く、やや閑散とした市部を家へと向かう。これから旧市街を抜け、田畑に沿った道路を走り、山裾まで走るという帰路だ。半時以上かかるだろう。
旧びた田舎城下の常として、車は隘路の入り組む市街を避けた周辺の県道へ集中する。その傍の歩道にSは緩慢に自転車を漕いだ。全般として登り気味となる道が、帰途の疲れに相俟ってSの表情を険しくした。晩秋の風は、凍えるとは言わぬまでも、頬を肌寒く強張らす。後ろに流され強張った髪ともども、あまり社交的な風貌ではあるまい、とSは思う。
行く手の交差点の信号は青だ。あれを渡りきりたいとSは思うが、速度を上げられないのは、歩道に黄色い帽子の小学生の三々五々、何やら荷物を提げて前から次々歩いて来るからである。この町にこんなに子供が居たかと思いながら、そのまま交差点に到達し、突っ切ろうとした時だった。
(無い……)
有るはずの横断歩道が無い。歩行者信号も無い。横断禁止と言わんばかりだ。停まって横を見ると歩道橋があり、黄色い帽子たちがその上を流れていた。子供らは何の屈託もなく、交差点の対岸から階段を登り、橋を渡り、そしてこちらへ続々、楽しげに降りて来るのだった。自発も強制も感じさせない、ただ普通に昔からの道のような流れであった。
そのまま下を渡れないわけではない。道路と歩道を隔てる柵は交差点で途切れ、少なくともSの自転車がそのまま進むには支障は無いのだ。無いのだが。
(何が俺を引き止めるのか……まさか)
怪獣が現れた。不細工な奴だった。
「子供達が危ない!」
俺は右手を掲げ、本部への通信回路を開いた。無職のオッサンとは仮の姿、その正体は正義の超級サイボーク、スペクタクルマンなのだ!
『変身せよ、スペクタクルマン!』
「了解!」
【主題歌】スペクタクルマン・ゴーゴー
♪地球の防卫 果たすまで
未来の星から翔んでくる
スペクタクルマン スペクタクルマン
ゴーゴー イェイェーイ スペクタクル!
超能力で斗うぞ
スペクタクルマン スペクタクルマン
ゴーゴー イェイェーイ スペクタクル!
Sは自転車をターンさせ、県道の反対側へ渡る横断歩道へと進んだ。遠回りだが、反対側には先へ進む信号と横断歩道があるのだ。向かいには若い女性が居て、なぜか自分を見ていた様にSには思われた。Sは眼を逸し、信号の変わるのを待った。背後に子供達は歩む。