Entry1
とどのつまり
サヌキマオ
「親方買ってきましたァ、今度こそ間違いないです――なんで魚一匹買ってくるのに八百屋に行って寄席に行って証券取引所にまで行かなきゃならなかったんだか」
「買ってきたんだったらなんだっていいが……こりゃあイナじゃなねぇな、ボラだよ」
「イナんなっちゃうなぁ、魚屋さんはイナだっていってたのに」
「こういうのは出世魚っていってな、小さい時からオボコ、イナッコ、スバシリ、イナにボラってんだ」
「なんです?」
「大きくなるたびに名前が変わるんだよ、オボコ、スバシリ、イナにボラだ」
「男いなくて寂しきイナバウアー?」
「おまえね、一回耳か脳の医者に行ったほうがいいんぢゃないか……まぁ兎に角、最後にはトドになるン」
「急にでかくなるね」
「知ってんのかい?」
「間宮海峡の浜辺でのたくってる」
「そのトドぢゃないんだ、トドってのはそうだな、出世魚の殿様みたいなもんだ」
「殿様は北に渡ってニシン御殿を建てました、バンザーイ」
「ナンダカヨクワカンナイ」
「オボコってのはなんでオボコっていうの?」
「オボコってのは子供のことだよ。おめえも知ってんだろう、若い娘をオボコって呼ぶの」
「ああ、未だ通じぬ女だね。未通女」
「なんでそう難しい言い回しだけは知ってるんだろうね」
「人間と同じだ、最初は花も恥らうオボコで、男いなくて寂しきイナバウアー、で、最後にゃトドになるんだ」
「だから最後はとどのつまりってんだ、よく覚えとけ」
「やれやれ、教わってんだか小言を言われてんだかわかんないや」
「あら定吉じゃないか、ちょとお待ちよ」
「なんですおかみさん」
「なんですじゃないよ、あんたこの前、明石町の大石さんの法事の仕出しだって注文受けたけど、六膳も多く注文を受けたってぇじゃないか」
「そうなんですよぉ、大石さん四十七膳だって伺ったんですが、実は四十一膳だったんです」
「仕出しの御代が四十一膳分しかこないからおかしいと思ったんだ、残りのお膳はどうしたんだい」
「残りのお膳は……お膳は綺麗に洗ってお返しいたしました」
「そうじゃないよ、お膳の中身はどうしたんだってんだ」
「い、犬です。大石さんのところに行く途中で野良犬に出くわしまして、どうしても怖いしおっかないし、仕方がないのでいく膳かおいてきたんです」
「犬がえびの尻尾を残して食べるかい! 売り物を六膳も……このやろう、大法螺吹き!」
「ははぁ、おかみさんも知らねえんだな。ぼらの大きいのを、トドって云うんだ」