帰ってきたヨッパライ
アレシア・モード
私――アレシアは死んだ。
色々経験してきたつもりではある。幽霊に会った。宇宙人すら何度もコンタクトした私である。しかしマジ死ぬのは初めてである。さすがにそこは人並みか?
私は覚束ぬ足取りで、天国への階段を登る。いや、これヤバいだろ。天国の階段、マジ階段しか無いのである。足元にただ階段、ただ薄っぺらの階段、手摺すらない。その下は無限の空間、仄暗い霞の距離感もなく広がるばかり。人智を絶する高みの果てに、足元の階段はますます狭まっていくではないか。しかも私は酔っているのだ。お分かりか? ちょっと踏み外せばどうなるの。普通、こう、あるだろ、河とか渡し船とか? 無いのか? マジか。
最後は這いつくばって登った。はあっ、もう幅は一メートルもない。ヤバい、天国ヤバい、目前に扉がある、はあっ、ピカピカじゃん、アホですか、ラスベガスですか、いやもうハシゴくらい細いじゃん、死ねって言うんですか……
『娯楽の殿堂、パラダイスへようこそ』
光が私を包む。
何やらバロック調の装飾に満ちた回廊、左右には可愛い少年少女が眩い笑顔でなぜかお辞儀をすると、私の背を押し奥へ奥へと進めて行く。そこは大勢の人々の楽しげに集うショッピングモール……的な広場である。右手にチョコスイーツの店、うわ、むっちゃ安い。
「おい、お前!」
突然、強い口調で呼ばれた。見ればこの世の全てを手に入れたような目のイケメンが、ブランデーグラスを差し出して言うのだ。
「お前は俺のものだ。お前にはその価値がある……全てを投げうっても、お前が欲しい! 誰にも譲りはしない、さあ、このグラスを」
「ふむ、面白い」
後ろから声がした。振り向くと、陰湿げなメガネをアピールするイケメンが、ワイングラスを差し出して言うのだ。
「私は君に興味はない。ただ……その骨格はなかなか良い。頬から首筋にかけての肉付き、髪のラインも芸術的じゃないか……いや、あくまでそれだけの事だ! だからこのグラスを受け給え」
「お姉ちゃん!」
下から声がした。見ると十代すれすれな美少年が、ストロングゼロの缶を差し出して言うのだ。
「僕、僕、お姉ちゃん、ごめん、分かんない、分かんないけど、僕、お風呂で、僕、僕、お姉ちゃん、お姉ちゃんのこと、ごめん、だから、この、僕のストロングゼロを……」
(なあ、おまえ……)
はい?
(まだそんな事ばかりやってんのでっか……)
はあ。
(ほなら、出てゆけ……)