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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第36回バトル 作品

参加作品一覧

(2020年 12月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
ごんぱち
1000
3
永井隆
841

結果発表

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(いまさら)1000字後に死ぬ作者
サヌキマオ

 などとタイトルをタイプしておきながら、さっきボツとして消した「強盗トラベル」について考えている。ただのしゃれであるが、これをどう広げようか。
 昔聞いた話であるが、日本に比べ、伝統的に中国のほうが悪い商売が横行するのは単純に国土の広さの違いであるということで、向こうでは商人がさんざん悪稼ぎしてとんずらしたあと、全く別の州に旅立ってしまえばなかなか捕まらなかったという。これが日本では、あっという間に人と人の間で人相や風体、その手口などが広まってしまう。人の噂は七十五日とは云うが、七十五日もあれば日本中に情報が行き渡ったということなのかもしれない。昨今はもっと網の目が細かくて、たとい世界中のどこにだって情報の網が蔓延って人を、モノを無理矢理に絡め取っていく。
 そんな中で「旅する強盗」とは。銀座の宝石店で強盗をしても、よっぽど組織的にやらないと水際で止められるだろうし……いやむしろ、組織的な犯罪としての「強盗トラベル」……強盗ツアーパック。
 不意にひらめいた気がした。ツアーパックを売る側、買う側。強盗を誰が売って、誰が買うのか。ここを広げられたら1000字くらいは書けるような気がする。
「えーと」脳内から似たような事案を探すのである。あれ、だれだよね。昔のイギリス人とかがインドとかアフリカに行って猛獣ハンティングしたみたいなのはある意味「強盗」いや「殺傷トラベル」である。金持ちの道楽。用意された冒険。ただ、金持ちの道楽であちこちの経済が動いていたのは確かで、イギリスからの船、召使い、ガイド、下の世話、エトセトラ、エトセトラ。
 象を捕まえるジョークを思い出した。必要なものは黒板とチョーク、ピンセットに瓶。
 サバンナの真ん中に黒板に「1+1=」と書いておくと象がゾロゾロとやってきて「なんだろう」と首を捻る。これを遠くの木の上から眺めていて、ピンセットで一頭ずつ摘んで次々に瓶の中に取り込んでいく。面白いなぁとは思ったけど、捕まえたあとどうするんだろうね。瓶から出したらむくむく元に戻るのかね。
 話が脱線して、あっ、と気がついた。強盗トラベルのみならず、「強盗イート」なるものもあるのであった。こっちのほうがもしかしたら広がるのではないか。
 仕切り直し、と部屋から台所に出ると、どこから入ったのか、腹をすかせたのであろうツキノワグマが冷蔵庫を横倒しにして中のものを貪っており、こちらに目が合っ
(いまさら)1000字後に死ぬ作者 サヌキマオ

犯人は東洋人
ごんぱち

「――犯人は、あなただ」
 探偵の四谷京作は、ホテルのロビーに集められた宿泊客のうち、一人の女を指さす。
「お忘れ?」
 女は笑顔を崩さない。
「先ほども言った通り、犯行推定時刻の午後二時、私は隣町のクリーニングショップでコートを預けていたわ。ああ、クリーニングの店員がグルだったと言う事かしら?」
「いいえ、クリーニング屋さんの証言は正しいですが、そこにあなたは行っていない」
「そう?」
「あなた……双子の妹さんがいますね」
「いないわ。大抵の国民が一人っ子よ」
「向こうの警察から、不正出国に関わったブローカーからの調書の提供がありました」
 女の表情が僅かに強ばる。
「本物のあなたのコートの燃え残りが、このホテルの焼却炉で見つかりました」
 他の宿泊客達は自然、女と距離を取り始める。
「今クリーニング店にあるのは、妹があなたになりすまして預けた、二枚目のコートです。これであなたのアリバイは成立しなくなった!」
「……妹は?」
「警察が三〇分前に」
「そう」
 再び女は先ほどの笑顔に戻った。
「夫を昨日殺したのは私。妹は手筈通りにアリバイ作りに協力して、そのまま出国する予定だった。これが成功して、生命保険を受け取れなければ、この工作の費用も払えない。失敗は許されなかったのに」
「元々、何一つ許される行為ではありません」
「ふふっ、そうだった。でもあの人も悪いのよ。お金持ちのような事を言って。こちらも家族の期待を背負って嫁いだのに。もっとお金があれば、わざわざ生命保険なんて当てにしなかったのに……悪魔みたいな女でがっかりしました?」
「最初から、マークしていましたよ」
「あなたの方が一枚役者が上手だったって事か」
「一つだけ、分からない事がある」
「なに? もう何も隠す気はないわ」
「被害者は、真正面から撲殺されていた。元国際警備会社社員で、現総合格闘技の重量級世界チャンピオンに対して、一体どうやってそんな真似が出来たんです?」
「ああ、そんな事」
 女は袖をまくる。そこには、複雑な文様が彫られていた。
「東洋の魔術によって、七番目隠し空間から、小林製薬のツヨクナールを出して、身体機能を常人の二七六倍に上げただけです」

「四谷先生、今回の『探偵四谷』シリーズ、リテイクです」
「おいおい、ノックスの十戒ってのは、意図的に破る事で物語に幅が出る事もあるんだぜ? モルグ街の殺人にしてからが――」
「……いらんところで破らないで下さい」
犯人は東洋人 ごんぱち

くろだい
今月のゲスト:永井隆

 隣の嫁が里帰りの土産に塩魚をくれた。くろだいの生きのいいのを上手に塩してある。早速昼飯にいただこうと楽しみにして台所の柱にぶらさげた。飯の上にのせて、好いお茶を厚くいれ、ぶっかけてさらさらとお茶づけにしたら……ああ久しぶりのごちそうだ。配給の少ない焼跡暮らしで代用食ばかり食べている今日このごろのこととて昼飯を子供と一緒に待っている。
 ところが十一時すぎ、ぞろりとご来客だ。池田氏夫妻が佐世保からわざわざ御見舞に来て下さった、汽車の旅は難しいのによく来られたものだ。ずいぶん多い人で切符をやっと買って、浦上まで立ち通しだったと言う、話はそれからそれへとはずんでお昼になった、台所でばあさんが食事の用意をしている、さて今朝もらった塩魚をこの遠くから来られたお客に差し上げたものか? それとも出さずにおいて晩に私と子供とで食べるか?
 池田氏はしきりにズルチンの話をしかける。私はそれに何か好いかげんな返事をしながら一ぴきしかないくろだいの塩物を出すか出さぬかでさっきから迷っている。あのくろだいは今私の家にある物のうちの一番よいごちそうである。いや近ごろこの焼跡のどの家でもこんな魚は手に入れた事があるまい、遠来の珍客に出さねばならぬ、然し、出したら後がない、私も食えぬ、幼児に久しぶりに魚を食わせようと思っていたのに、子供の喜ぶ声もきかれぬ。
 台所の障子が少しあいた。横目を使ってみると、ばあさんが問題のくろだいを右手に差し上げて目くばせをして私にたずねている。私はこっそり首を横に振った。
 やがて何もございませんが……と言いながら、ばあさんが貧しい野菜料理を並べた、私も何しろ焼跡で万事不自由なものですからと嘘をついた。けれども池田氏夫妻は心から喜んで食べて下さった上、こんな野原で清貧な生活をなさっているのには感心しました、とさえ言った。
 ――その夜の食事にくろだいは出て来たが、歯をむいて、私をののしっていた。その目玉が私をにらみつけているので、はしが震えてつけられなかった。