Entry1
孝行糖アフター
ごんぱち
「おとったん、今日も孝行糖売れたよ」
「やあ良くやったな、与太郎。最初のうちは、お武家屋敷に売り込んで殴られたりしたもんだが、大分サマになって来たじゃないか」
「あはは、おとったん、人の事をバカって言う割には季節を間違えてらぁ。今は冬だよ、サマーじゃ夏さ」
「バカだな、サマーは秋だよ」
「ええっ、そうかい? でも、チューブにサマードリームって曲があるじゃないか」
「だからだよ。チューブは夏のものだろう」
「うん」
「夏に夏の夢は見ないだろう?」
「見るかもしれないけど」
「事実は小説より奇なり、というだろう。フィクションにおいては、リアルよりもリアリティが重要になる。偶然に起こりえる事だからと言って、起こして良い訳じゃない。また、当たり前に起きるだけの事については描写する事は無意味だ。そういう意味で、創作である限り『夏に夏の夢を見る事』が描写される事はない」
「なるほど。じゃあ冬は?」
「スキーやスケートの事を、ウインタースポーツ、というだろう。多分、あれは冬のスポーツという事を指しているんじゃないかと、俺は踏んでるんだ」
「なあるほど。だとすると、冬を意味するのはウインターかい?」
「そういうところがお前は浅はかだ」
「ひどいねおとったん、バカならまだガマンできるけど、ハカじゃ考える事も出来ないじゃないか。まして浅く埋められちゃ、犬が掘り返しちまう」
「そうじゃないよ、考えが浅いってんだ。良いか、英語で勝つ事をウィンって言うらしい。スポーツなんだから、勝ちたい気持ちがあるだろう。だとすりゃ、ウィンターのウィンは季節とは関係ない。つまり、冬はターだ」
「なるほど、ターかい」
「次に春だが、夏に春の夢を見るというのはちょっとおかしい」
「なんでだい?」
「物語は、先への興味を持たせるものだ。さもなければ、途中で飽きられてしまう。夏に過ぎ去った春の夢の事を歌っても誰も興味を持たないだろう」
「そうかな」
「考えてみな、クリスマスの当日には、おせち食材が売られ始めるだろう」
「チューブの歌はスーパーの食材かい?」
「売り物という意味では同じさ。だとして、消去法で何が残る?」
「……秋だね」
「そう。だから、サマーは秋なんだ」
「じゃあ、サマーになって来たたぁ、どういうこったい?」
「仕事に慣れてサマーに、つまりあき始める頃だから、気をつけろってんだよ。商いは飽きないてぇぐらいだ。一層頑張って励めよ」
「分かったよおとったん!」