何かイライラする。
私――アレシアは苛立っていた。ショッピングモールの一角、ゲームコーナー近く。何の変哲もない場所だ。だが、この苛立ちの原因は何だ。
『……熱々のポップコーンはいかが?』
頓狂な唄とともに流れる音声。ネコのキャラを形どった、よくあるポップコーンの販売機。
(そうか、こいつが!)
私は気付いた。そのスピーカーから流れる唄の高周波成分に、別の音声が重ねてエンコードされている。単純なフィルター、敢えて私に知らしめるかのように!
(……何者だ)
機械は歌い出した。
♪ハロー・ネコーおいでやす(熱々のポップコーンはいかが?)ネコーは楽しいお友達(熱々のポップコーンはいかが?)みんなで仲よく食べに来い
私は……ネコー星人。アレシアよ、よく我が正体を見破った。だが我々の【ポップコーン0指令】を止める事はできぬ。【ポップコーン0指令】とは
出し抜けに音声は途絶えた。
「おい、お前ッ」
「はあ?」
近くに居たどっかの親子が私を見た。
「あ、いえ何でも……」
(ポップコーン0指令とは何だ)
機械は歌を再開した。
♪ハロー・ネコーおいでやす(熱々のポップコーンはいかが?)ネコーは楽しいお友達(熱々のポップコーンはいかが?)みんなで仲よく食べに来い
……という事だ。【ポップコーン0指令】が完璧だと理解できたかね。これ以上の干渉は止め給え、アレシア・モード。同じ、宇宙人同士じゃないか
「誰が宇宙人だ!」
どっかの子が疑惑に満ちた目で私を見る。いや、そんな事より。肝心なとこだけ聞こえなかったじゃん。何を企むネコー星人!
♪ハロー・ネコーおいでやす(熱々のポップコーンはいかが?
私は……ネコー星人。アレシアよ、よく我が正体を見破っ
「ループしてんじゃねえ!」
私は怒った。この邪智暴虐のネコを除かねばならぬ。私には宇宙は分からぬ。私は南洋生まれの台風女だ。だがその美しい体には正義の血が隠されているのだあ!」
「ちょっと、あんた」
「喰らえ鉄拳、プラズマクラスターパンチ!」
「ばかたれー」
制服を着たオッサンが腕を掴んだ。貴様、ネコー星人の手先かッ」
「アレシアさぁん、すいません混んでて……」
馬鹿の声がする。そうだ、私はトイレから戻らぬこの馬鹿を待ってたのだった。
馬鹿が何やらヘコヘコすると、辺りは静まった。
「ご免なさい、遅くなって。あ、ポップコーン欲しいんすね。さあ
僕と一緒にハンドル回しましょう」
「いやだぁ」