大怪○のあとしまつ
ごんぱち
勇者の一撃は、邪竜の顎下から脳天を貫いた。
邪竜は力を失いながら、ゆっくりと王都に落下していった。
「――さて諸君。勇者が不用意に倒した邪竜が、王国の城塞のど真ん中に落ちて来た訳だが。これを処理する方法について、諸君の忌憚のない提案を聞きたい」
「王様! やはり焼肉が一番だと思います。こう、炎魔法の使い手をずらりと集めてこんがりと! 臭いが強いですから、香料もふんだんの用いるのが良いでしょう」
「参謀長、町中で炎魔法を使うなんて、一体何をお考えです? 刺身が良いに決まってますわ。邪竜の体温は水を湧かすほど高いので、寄生虫の心配がありませんでしょ。何より、建設局長の強い希望で2年前に肉の生食が禁止されてから、国民の不満は頂点に達しています。今も闇取引で法外な値段で流通して、膨れあがった犯罪組織は政府にも食い込んでいるとか?」
「衛生局長! そないな事実無根な噂に踊らされるなんて、底が知れるで! まったくもってアホらし、子供の空想やで! 邪竜の生肉には絶対に反対や。その理由は……ええと、なんや、邪竜だからや。ええと……邪竜の肉は瘴気を発しとる! せや、そうに決まっとる! 当然、聖水で瘴気抜きが必要や! どうせ聖水に漬けるんやったら、そのまま鍋でホロホロになるまで煮れば手間がないんや!」
「そんな事をしたら味が抜けてしまいますわ、建設局長。生肉をそんなに流通させたくないのかしら」
「だからやっぱり焼肉を」
「せやかて!」
「……どう思う、宮廷料理長?」
「はい、王様。この邪竜は1000ミルテ級の巨大な個体。肉の量は計算で30億フルタはございましょう。王都の人口が農地含めても1万人、毎日3フルタづつ食べても1万日、30年近くかかる計算でございます。刺身は乾き、焼肉も茹で肉も冷めてしまいます」
「ふむ、ならばどうする」
「保存食と致しましょう。北の地域では、大きな獣をそのまま保存食に調理する技術があると聞き及びます」
「なるほど、採用!」
「邪竜のはらわたを出して、その中に獲ったは良いけど使い道がなくて、防腐の祝福だけで放置されていた大怪鳥のロック鳥を詰めましたぞ! 後はこれを土に埋めて熟させるだけです」
「うむ、後の作業も巨人族に任せよう」
「頼んだぞ、巨人族!」
「任せたわ、巨人族!」
「きばりや! 巨人族」
「……なあ、ギガ野?」
「なんだい、サイ木」
「これ、新鮮なうちに食べちゃ駄目かな?」
「駄目だろ」