Entry1
ミートピア
サヌキマオ
とん吉はずっとキャベツ畑で働いていた。両親からノウハウを受け継いでいて、農場で頑張れば頑張っただけまるまるとしたキャベツが出来、飛ぶように売れていった。ときには日照りや長雨に苦しめられもしたが、おおむね平穏であった。平穏は空虚であった。
「どこから?」
町から帰ってきたミヨシが手に封筒を持っているのに目を留めた。
「あんたによ」
郵便が届くこと自体が珍しい。よほど手紙の中身が気になるのかと思ったら、ミヨシはコートやマフラーを床に脱ぎ散らかしてそのまま便所に駆け込んでいった。
手紙というのはまず表を見るべきか裏から見るべきか、つまり、誰からきたのか誰にきたのかという話であるが、とん吉はまず送り主をしげしげと見て、裏返して宛先をじろじろと見た。とても自分に来た手紙と思えなかった。白い封筒の送り主には「ミートピア」とある。指で引きちぎるには度胸がいる厚さだ。鉄鋏はどこにやったかと見回すと、調理台のスイカに突き刺さっている。刃についた果汁のべたべたを丁寧に拭いて、とん吉はようよう封を切った。中には二つ折りのでこぼこした厚紙が入っていて、金の箔で「ご招待のご案内」とある。
「要するにだ」ミヨシに話すために要約する癖がついている。
「あんたは『よく生きている』からミートピアにご招待しますよ、ということだ」
「あんただけを?」ミヨシは眉根を寄せる。「ダントツに怪しいわ。どんなことがあるっての、それ?」
「さあ」とん吉は眼鏡越しに複雑でまわりくどい文面をほぐしつつ「謝肉祭というのだから、まぁパーティーみたいなものだろうよ」と答えた。
ミヨシはきっとなった。「あんただけ?」
「そんなことはないさ――大勢様にておいで頂ければ幸甚にてそうろう、と書いてある、と思う」
「ならよし」ミヨシは急に鷹揚になる。「じゃ、いきましょうよ」
「じゃ、ってまてまて」とん吉は慌てて紙面に目を走らせる。「三月だ。三月のことだ」
「なんだ馬鹿馬鹿しい」ミヨシは急に興味を失ったらしく、おもむろに台所のラヂオを点けた。ここで「馬鹿馬鹿しいってことはないだろう」などと言い返そうものならばどうなるか、それはもう七年にもなる夫婦生活で学んでいることだ。しかしどうだろう!「謝肉祭」いい響きだ。自分たちなりにキャベツづくりを頑張ってきた豚生のつもりだが、ちゃんと見ていてくださる方もおられるのだ。
ラヂオでは繰り返し、大嵐の予報を報じている。