Entry1
戦争の王
サヌキマオ
夕方のそぞろ歩き、ウォーキングに出かけると戦争の王が出てきた。トランプの王様のようなヒゲと顔立ちはしているが、迷彩服をぴったり着こなして両腕にライフルを抱え、腰にいくつも手榴弾をぶら下げているあたりからもガチであることがわかった。そうなると王様独りというのは寂しいもので、河川敷の青々とした草むらの中から兵士たちがわらわらと湧いてきた。みな土の中から出てくるのでゾンビの一種かもしれない。たまに目玉が飛び出て垂れ下がったやつもいたりなんかして、郎党はぞろぞろと王の周りに群れ集った。鎧を着たネズミがキイキイ云いながらちょこちょこと走ってきて、次々に兵士を整列させていく。ネズミの団長と歴戦の騎士団たちだ、というふうに見えなくもない。
戦争の王とその一団が出てくればもちろん闘争の相手が居なくてはならない。川向う、砂利が堆積して浅瀬になったあたりに忽然と野武士の集団が現れた。多くが髷に結うこともなくざんばらにしている。みな一様に傷を負っていた。矢ぶすまになってはりねずみのようなのもいる。
急に風が強くなってきた。「やあやあ遠からんものは音に聞け」拡声器の声が風に揉まれている。通りかかる人もなく、河川敷は風の音で埋め尽くされる。「近くば寄って目にも見よ、織田安房守が配下蜂須賀正勝が」名乗っていた先兵がどうと倒れた。見れば喉笛に矢が刺さっている。
合戦が始まった。戦争が包括的なものだとすれば合戦は合って戦うものだ。移植パーツと血飛沫レイヤーの見本市みたいになった歩道を歩いていく。こんな殲滅戦、時代錯誤だろうか。世界の裏側ではドローンが人間を撃っているというのに。とにもかくにも敵は潰えた。戦争は終わった。生き残った戦争の王たちは勝どきをあげた。尊い犠牲を持ってして彼らは打ち勝ったのだ。
戦争が終わってしまえば戦争の王は用無しとなる。部下たちに髭を毟られ胸元の勲章を引きちぎられ、足蹴にされ財布を抜かれレイプされてどこにいったかわからなくなる。
下人の行方は誰も知らぬ、と結論づけたところで向こうから革ジャンにしなびきった金髪の兄ちゃんがとぼとぼ歩いてくる。おりからの乾燥した土が強風で巻き上げられる中、どこで買ったのかソフトクリームを右手に掲げてやってくる。土埃がビタビタとクリームの白い肌にまぶされるのにも構わず舌で舐っている。
馬鹿じゃねえか、という感想を持ったところでこの話は終わる。