Entry1
スイカ
サヌキマオ
朝から今日の最高気温は三十九度だというのを見たが、一旦出かけてしまえば何度でもいい。気温が上がれば上がるほど空気は乾燥するものと思っていたがそんなに甘くはない。頭上にコタツの赤い部分があってずっと照らしている感じの上、今はスイカを抱えている。さっき道端で拾った。
ようやく謝る機会を得られた。家に来ても良いという電話がくるまでずいぶん待たされて、それからさらに二週間だ。ゴールデンウィークごろに謝っていたのが、よもや8月にまで持ち越すとは思わなかった。
それでも寝坊した。寝苦しかったのはある。寝ている部屋というのはなぜか午前二時くらいに室温がぐっと上がることがあって、たまたま目覚めてしまうと眠れないことがある。今日は折り悪くその日で、四時すぎにウトウトっとしてから目覚めると十一時を回っていた。まだ間に合うと思って家を飛び出して、土産を買うのを忘れた。
スイカは電柱の脇に落ちていた。イメージよりもかなり巨きいようだが緑地に黝い縞が入っている――あおぐろい? と逡巡する気持ちもあったが、そのくらいのカラーリングのスイカが存在してもいいだろう、と安易に納得した。これも三十九度の為せる業である。スイカの肌は腫れぼったく熱い。日差しを吸収して手のひらを刺す――しかし。スイカの重さに意識が行くと、ふと脳裏によぎるものがある。これだけ熱々のスイカを持っていってもすぐに「食べよう」とならないはずだ。師匠のところにはおかみさんがいて、他に独立した息子さんと海外留学している娘さんがいる。このスイカ、持っていって、持て余してしまうのではないか。
失敗した、という実感がよぎると汗がどっと吹き出してきた。寄り子ちゃん、たまたま日本に帰ってきたりしないかな。いやでも、人ひとり増えたところでさすがに食べきれないのでは、と考えたところで電柱に頭をぶつけた。額から汗の流れるままに前を見ていなかった。両の手から滑り落ちたスイカはまっすぐに地面に向かい、めしゃりと潰れる音がした。入った罅からぬるい液体が吹き出て灼けたアスファルトに湯気を生む。続いて中からぬるりとした鰭の付いた腕、嘴のついた頭、申しわけ程度の甲羅の付いた背中がまろび出る。
「わけのわからねえものを連れてきやがってどういう了見だ馬鹿野郎」
すっかり懐いた河童をあとに従えつつ「蛙の仲間だけに糖度が高い」などと考えながら駅までの下り坂を歩いて帰る。