空が白い。輝いて、一面が夏の太陽となった。そして人、人、人々みな太陽の中、同じ場所へと歩いて行く。熱射に突かれて脳が一つに繋がったのか。いや、私――アレシアさんは知っている。人はもっと半端に個性的だ。
人間は1677万の色彩を識別するというが、さて駅の東口からは赤色の群衆が流れ出ていた。私は子供連れの男性にマイクを差し向けた。
「――あなたは何色ですか?」
「もちろんツァーリ・レッドです。今日は皇帝の復活祭だから『爆心の塔』に行くのだゼーッ」
彼は全身『皇帝の赤』グッズを装備し、子供もまた赤かった。赤い群衆は歩きながら『不滅皇帝Z』の歌を熱唱し始めた。
「♪皇帝は生く我らの裡に、今だ今こそ転生だ、悪のアレシア全滅だ」喧騒の苦手な私はその場を離れた。
駅の西口から湧き出るのは緑の人々だ。テンション低い。何やら唱えて低周波の唸りとなって歩いて行く。鬱陶しい圧を感じつつ、私は一人にマイクを向けた。
「――あなたの色は?」
「アレシア・グリーンです。あなたもアレシア様を讃えに来たのですか」
「え――いやその」
「♪調伏の日――私達は仰ぐ『爆心の塔』――美しきアレシア――悪魔の皇帝を滅し給うた聖なる日」
「待て、この女は怪しい」
誰かが私を指さして叫んだ。
「この暑いのに黒ずくめ、正義教会のスパイかも」
それ皇帝がお友達だった教団じゃん。あんまりだ、あたしゃアレシアだよ。とか言うのも面倒で、私は陰鬱な怒号を離れて南口へ向かった。そこには黒っぽい人々が歩いていて「早くこちらに隠れなさい」とか手招きするのは無視して、爆心の塔へ向かう。
近くの寺院を訪れた信徒らしい青い一団の一人は、
「ここって蒼蒼宗総本山の門前なのよ? 変な塔まで出来て本当困るわ。暗殺犯人のあれ、アサシア? 何で死刑にならないの」と嘆きつつ、路傍に並ぶ白いテントの土産物店で、皇帝と私らしき顔を印刷した扇子を漁っていた。店番の白シャツの男は、
「困った事しやがったとは俺も思ったよ。でもここは田舎で寂れてるしよ、人が集まるのはよ、正直有り難いんだよ」と明らかに地元の言葉と違った調子で答えた。
「やあアレシア君。久しぶりだね――」
私はそっと振り返る。
「あっ、皇帝❤」
「また逢えて嬉しいよ。民衆も自由そうで何よりだ。楽園は、まだ出来ないのかな」
皇帝は私を見つめて言った。
「緑色の顔はやめたのか」
「――じゃ、また」
私は目を合わせぬまま、爆発した。