アレシア先生ラーメンの夢
アレシア・モード
ラーメン食べたい。仕事を終えて、各停しか停まらぬ駅に降り、微妙に昭和な駅前を抜け、築35年のマンションの建物が見える辺りからもうラーメン脳と化している、毎日これだ、エレベーターを降り、狭い通路を進むと、一人暮らしな私の部屋の明かりが点いていて、何かラーメン茹でるインスタントな匂いが漂う、ああ窮まったラーメン脳が産む幻覚か、違う、まあ明かりはいつも点けてるけど、いま絶対うちで誰かがラーメン作ってる、玄関ドアのノブをそおっと回す、ああ鍵開いてるわ、誰かな、私は今夜ラーメン作りに来そうな恋人の顔を順に想い浮かべようと努めて何も思いつかんのでバッグからベレッタ・ナノを出し、慎重にドアを引いていくとキイイと軋んで開く、防犯のつもりで注油してないし
「おかえり」と私が愛想無く言う、鍋にはラーメンが半ば煮えてて「誰だっけ」と私が言う「私はアレシア・モード、色は黒いが南洋じゃ美人なのよ――」いまいち覇気がない、「何してるの」私は棚から百均のラーメン丼を出しながら「丼を出してる」と答え、その間に私が銃を持ったまま冷蔵庫からサンガリアのロング酎ハイ缶と牛乳パックを順に出しテーブルに並べ、テーブルにはラーメンの袋があって、半分に割った残りの麺がのぞいている、私が粉末スープの小袋の端を切り、丼にスープの粉を半分だけ振り入れて、そこに大きな瓶から穀物酢を少し注いで箸で粉を溶く、半分残した小袋の口を折り、ラーメンの袋に戻し、袋を畳むように閉じて輪ゴムを掛ける、これは次回用ね、そこでラーメンが茹で上がるのでコンロから降ろし、一緒に煮ていた卵の黄身を崩さぬよう、鍋の中身を丼に移し、牛乳を少々加え、軽く麺を混ぜる、その上にピザチーズをトッピングし、ゴマ油をかけた、私の完璧な手際の前に、私は仕方なく銃を置いてテーブルにつく、私が七味唐辛子の缶を置く、そしてスープは赤黒い柿の果肉入りである、「ああ秋の法隆寺ラーメン――私の未来の野望までよく知ってるね」「そりゃあ私だし」と私は答える「七味の缶、いいのそれで? 法隆寺なのに善光寺の缶は不似合いでしょ」「考えとく」と私が酎ハイを呑んでいる、ああ未来か、私はもう一つ酎ハイを開ける
目覚めるともう日が暮れる。薄ぼんやりとテレビを観て。ああ、そろそろ仕事に行った私の帰る時分かと、柿を剥く私、鍋に水を入れコンロに火を入れて、半分にしたラーメンの袋を出す、糖質オフだよ。