Entry1
岩の海から
サヌキマオ
道すがら、たまに日が差した皮膚だけがあたたかく、ありがたく感じる。
案内された岩海と呼ばれる場所は、お世話になった宿坊から車で三十分ほどのところにあった。宿坊は山上の空港から車で峠を二つ越えて三十分のところだから、方角はどうあれ、ずいぶん遠くまできた気になる。ガンカイというのは地元で習慣としてそう呼びあらわしているのかと思ったが、国の特別史跡として指定されている旨の看板が立っている。聞けば、地元の小学生が遠足に使う程度のトレッキングコースだという。思っていたのと様子が違ってきた。
少し登るとまもなく角の取れた岩石が見渡す限りの視界を埋めてくる。道端の案内を見れば「岩海の風景を保全するためにボランティアが発生する草木を駆除しています」とある。
「あれかあ」
探すまでもない。遠く岩の海に一本だけすっくと立ったヒマワリに声が漏れた。殺風景なところに花弁の黄色が否応なく燿る。
「そうなんですよ」
市民課の職員が相槌を打つ。
「誰かのいたづらではないかとも思ったんですが、どうも造花でもないようでねえ」
スマホの電波は通じないが、気温計の表示にはマイナス二度とある。青空に映えるには違いないが、とてもヒマワリが元気に咲く環境ではない。
「――おかしいな」
潜望鏡を通して外の様子を伺っていた"隊長"がつぶやいた。
「どうしました」
「人間二名がずっとこちらを見ています」
「きっと気の所為ですよ。向こうとこっち、六〇〇メートルは離れています」
「そうだろうか」
人間二人は岩石地帯を道に沿って迂回しながらも距離を詰めてくる。こちらから視線を外さないのが実に不安だ。
「いや」隊長はしばらく黙り込んだ。ふいに頭の中に浮かんだ仮説を検証する。
「もしかして、われわれは植物に偽装をすることで、かえって目立っているのではないか」
「なるほど」
検証してみましょう。部下が手元のタッチパネルを縦横に操作するとプログラムは過たず、あたりの岩という岩の隙間からこれでもかと同様の花をニョキニョキ生やし始めた。
「バカモン! 人間が驚いて逃げ出したじゃないか!」
それでもなお不思議がっている部下からタッチパネルをひったくると、隊長は緊急停止のコマンドを発信する。さてどこをどう間違えたやら、ヒマワリの群れは一斉に蒼天に向かって発射されていった。
この話はその後、特になんの話題にもならなかった。
誰も自分のことを信じなかったのである。