Entry1
新・続々々々新ミートピア
サヌキマオ
「待合」と呼ばれる巨きな伽藍では家畜を中心とした数多の動物たちが順番を待っている。我々が知るところのキリスト教の教会を幾倍にも幾倍にも拡張したような作りで、五人がけのベンチがすべて同じ方向に並べられている。正面にはステンドグラスと思しき様子でなんらかの風景をかたちどっているようだ。特にルールが決められているわけではないが牛は牛、鶏は鶏でなんとなく集まってひっそりとしている。最初はどんな生き物も騒がしくいるが、なべてゆくゆく静かになる。
彼らが何を待っているかといえば、世界においてきた肉体が食べられるか腐るか燃えるかしてすっかり無くなってしまうのを待っているのだった。肉体が世界にひとかけでも残っていると、あまねく生き物はここより次に行けないのである。
ゆったりと時間を磨り潰す動物たちの間をガツゴツと足音が響く。動物たちの整理と誘導をしているのは鉱物たちだ。
「豚二九八二五」石の声は直接鼓膜を震わせた。
声の先にいるのは一匹の豚で、それはかつてとん吉と呼ばれた豚だった。
とん吉は岩に視線を合わせたが、目の前で動くものに目が行ったに過ぎず、意識は虚空にたゆたっていた。
「おまえの***である」
石の声にとん吉は目を見開くと、ぐっ、と立ち上がろうとし、うまく力が入らずにベンチをぎしりとさせた。それでもようよう立ち上がると、構わず歩き出した石の後を追ってよたよたとした。
呼ばれた動物たちの出ていく先は待合の背後に一つ大きく開いている。頻繁に迎えは来るなので重い扉は開け放しになっている。
当然、開け放たれた先のことも知っている。石畳の通路があって、あとは闇だ。光の加減によってはうっすら向こうの壁が見える気がするので、廊下は右か左に折れているのかもしれない。
「なあ」
とん吉から声が漏れた。久しぶりに声を出した。石には聞こえたろうか。だれも気にしなかった。
「二十七年だ。なぜこんなに、時間がかかってしまったんだ」
岩は存外に流暢に喋りだした。
お前の肉は挽肉となって宮崎県の山奥、中江ズワイさんの家の冷凍庫に保存してあった。ズワイさんが夫を亡くして一人暮らしになり息絶えるまでに七年、そこから遺体が発見されるまで八年、家が解体されて冷凍庫からお前が見つかるまでに十二年と三月――
その中江さんだかという人間もずっと待合で待っていたのだろうか。ふとそんな思いがよぎったが、すぐに忘れてしまった。